蓄
戌亥 零の失踪から、早一か月経って。
最初の方こそ目立たなかったけど、この頃、8番隊の乱れが目立ってきてました。
……自己紹介してないか。
僕の名前は浅見 奏太。………はっきり言えば、モブです。みんなで訓練してた時に、「なんだかんだ安心するけどね。」って言ってたのが僕です。
普段は8番隊の後方で、索敵と作戦立案を主な仕事にしてます。
普段零くんは後ろからあんまり動かないから、そういう時には作戦の立て方を教わったり教えたりしていました。零くんは作戦自体はあんまり立てないけど、時々すっごく鋭い部分を指摘してくれたりするから、割と仲は良かった…と思ってます。
で、話を戻すけど……零くんが消えてから、8番隊は、ずいぶん変わったと思ってる。もちろん悪い意味で。特に任務中はそこが顕著に出ます。
九条副隊長は今までの洗練された動きが崩れてる。狂犬のように前に飛び出し、傷つきながら敵をぶち抜くというか嚙みつくというか、みたいな感じだし。氷室隊長も、今までの優しい笑顔がなくなった気がする。なんというか、まさに氷っていう感じです。僕たちの破損や損害を惜しまない作戦も増えてきました。
普段は僕が作戦の大部分を考えていますあ、最終決定をしたり、実戦場でその場に応じた指示を出すのは隊長です。僕はそこに関与はできないから、どうしようもないんですけど。
「九条君。想定外の動きはしないで。そのまま前に進めばいいの。」
「うっせぇな、わかってる!」
こんな感じで、訓練中の口げんかも多くなった気がする。隊長、副隊長がそんな感じだから、チーム全体がそんな雰囲気です。それを何も思わない会長も会長ですけど。
いつも通り、僕が教室の隅っこで今までに立案した作戦を見返していると、氷室隊長が声を掛けます。
「浅見君。」
「…はい?」
「作戦なら私が考える。あなたの作戦は無駄が多すぎる。」
「……はい。」
…無駄が多いのは、どっちなんでしょうか。損害を抑えつつ長時間で敵を殲滅するか、損害を顧みず短時間で敵を一掃するか。答えは、もちろん前者です。損害が出てしまえば、任務の報酬を使ってその修理費などを僕らで負担しますから、自分たちのパワーアップには使えません。時には、そのまましばらく活動不能になることだってあります。この頃の8番隊は、常にだれか一人が抜けているような状態です。
まるで隊全体が、失った零くんの後を追いかけ、補完しようとしているみたいです。でも、僕は無理だと思います。
零くんと話していてわかったことなんですが、元は零くんも、あんな性格じゃなかったよう。10年前の一件の後からずっと心の中に闇を抱えていたらしく、ゾーラス星人に復讐するために、会長のスカウトを受けたようです。それはわかります。実際、僕や此処にいるほとんどはそんな感じの動機です。
でも、あの無駄をすべてそぎ落とし、敵を殲滅するためだけに刃を振るうようになったのは、1年生の間ずっと会長と付きっ切りでやっていた訓練の賜物らしいです。
零くんは元からゲームなんかも好きらしいんですが、そんなことをしている時間もなかったといいます。正直、おかしいですよね。いくら会長の命令であっても、そこまでの、それも聞いた話だと僕のような一般人だと3か月で精神が崩壊するような訓練を受けさせるのは異常だと思います。
もちろんそれに耐えきった零くんも零くんですが、なんとなく、会長は少しずつ、この学園を壊そうとしているように見えます。壊すことはしなくても、あの人のやり方には、よく違和感を感じます。それはきっと、これからもなんでしょうけど。それにあの会長、就任したのが10年前くらいだったはずなんですよね。
そんなことを氷室隊長の背を見ながらボーッと考えていると、突然鳴り響くのはいつもの出動ブザー。それを聞いた瞬間、隊の雰囲気が一気に変わります。零くんがいたころは「シャーナイ、またやってやるか。」みたいな感じだったのが、いまは「さっさと終わらせる。」「ぶち殺す」みたいな感じになっている気がします。もともと明るくするものじゃないですが、それにしても暗くと重苦しいんですよね…。
今回は市街地での対怪人戦。
市街地はビルなんかがあって入り組んでいるから、特攻というよりはビルなどをうまく使って砲火を浴びせる方がいいんですが…そんなことを知らないのか、はたまた知っているうえで無視しているのか、九条副隊長は「第六天魔王」を駆りまっすぐ敵に突撃していきます。
今までの九条副隊長はGAIDOに入力されている信長の魂を制し、華麗な剣技で確実に戦場を切り開いていく人でした。
ですが今はその全くの逆。自分の傷を意に介さず、仲間の傷も意に介さず、ただ前に進んで、力任せに刃を振るう。もちろん、リンク率も落ちてきています。
通信から聞こえる副隊長のコックピット内にはずっと警告のアラームが鳴り響いていて、そのモニターの端には、零くんが残していったマフラーがぎちぎちに縛り付けてあります。
「ハハハッ。遅いぞ!あいつはもっと早かったのを覚えていないのか⁉」
そういいながら戦場を駆けずり回る副隊長の姿は、零くんとは似て非なるモノです。零くんは確かに一見無謀とも思える相手に臆することなく挑んだり、大量の敵の中に突っ込んだりしますが、それは誰よりも自分の実力をわかっているから。勝てない相手なら適当に味方に誘導し、狩れるところは的確に狩っていくのが零くんです。
そんな様子を後ろから名眺める不室隊長の目は座っています。
「第六天魔王の左腕損傷率、60%。これ以上は危険です。下がらせますか?」
「いえ。許容範囲内よ。このまま続けさせて。」
僕が聞いても、不室隊長は首を横に振るばかり。本当に周りが見えてないなぁこの人は!
僕はそう心の中で叫びながら、背中についているレーダーを展開します。
僕の乗っているGAIDOの名前は「叢雲」といって、量産機に少し改良を加えた簡単なものです。索敵特価なので重火器はあまり積んでおらず、その代りに大きなレドームとレーダーを積んでいます。
いつも通り、戦場を見ていると、ある違和感に気づきました。
明らか、九条君が誘導されています。
「まずい!」
その先には大きな危険度特級くらいの大きさの怪人が一体。でも今の副隊長がそれをみえているわけがない。
今のままだと、同じく仲間が見えていない氷室隊長に捨て駒のような扱いをされるのがオチ!
……あの日から、みんなおかしくなった。明らかに連携制度は落ちて、性格が別人のように変わった人もいた。リンク率が急激に落ちて、一時GAIDOに乗れなくなった人もいた。そんなまずい状況下で、むやみやたらに突っ込んでいく副隊長と、人を捨て駒とみている体長はいらない!
サッサと、元の二人に、元のみんなに戻れよ!
僕は戦闘用でない叢雲の脚部のスラスターを全力で吹かす。
正直、チームはこのままでいいかなって思ってました。思ってましたとも!どうせのところ、僕は成績上位には入れるわけではないので!ですが……さすがにこの頃は!
「何してるんですか!皆さん!!」
僕は九条副隊長の後ろに迫る怪人の鋭く大きな爪を量産型の盾で受け、そのまま第六天魔王の黒い鎧を吹き飛ばします。その勢いを吸収しきれず鉄板はへしゃぎ、肩に備わった小型レドームはその衝撃で吹き飛ばされます。
「っ…おい浅見!何勝手なことしてるん―」
「浅見君戻って。そこはあなたの場所じゃー」
「皆さんこそ、一回GAIDOに頭ぶつけてみたらどうですか!」
叢雲からはさっきの衝撃のダメージを緩和しきれなかったせいであちこちから火花が散っています。
でも、ここで叫ばなきゃ、いつ叫ぶっていうんですか!ずっと後ろから怪人に叩かれてますけど!
「零くんがいなくなってからずっと見てましたが、あなたたちは何してるんですか!その操縦桿につけられたマフラーは何ですか!その腰についた刀のない鞘は何ですか!皆さんの瞳に焼き付いた、あの黒色の背中は何ですか!零くんは、8番隊を壊すためにゾーラス星人に突っ込んでいったんじゃないでしょう!あそこにいた全員を助けるために、わざわざその命を以て、先の未来を捨ててまで向かってくれたんでしょう!あそこで戦艦が全部沈んだからめでたしめでたしじゃないんですよ!!」
僕の目に映し出されるモニターは、見たことがないほどの警告アラートであふれています。装備の大半は壊滅してますし。でも……武器なら、動かない武器なら、僕の周りに大量にいます!
「自滅してもオーケー?仲間が傷を負ってもオーケー?違うでしょう!失礼ですが……あなたたちは零くんじゃない。そして…零くんは、あなたたちにそんなこと、一片も望んでいないんですよ!」
「…………………だな。…すまない、浅見。目が覚めた。」
「…ありがとう、浅見君。」
みんなのGAIDOの目を見ると、その光はさっきよりも明らかに明るく見える。よかった・・・・と安どしたのもつかの間、僕のモニターには、一件の通知音が鳴る。その番号は…
「この識別番号…間違いない!全員、通信つなぎます!」
僕は急いで、その通信が8番隊全員にいきわたるように調整します。その通知・通信の識別番号は……0。零くんの乗る最強のGAIDO、晦冥の識別ナンバーです。
僕が周波を調節すると、スピーカーから恐ろしく大きい金属が軋むような音とノイズ音が響きます。ですが…
「ザザァァ――――ザザァー―耳――ざわりだ―浅見。ーーーお前の鳴き声は――いつも煩いー。」
「戌亥君!」
「戌亥!」
隊員のみんなが声を上げます。正直僕も混乱していますが……この状況を見ていた?それとも、怪人のいたずらか…
回線から返事はなく、ずっと砂嵐の音が響くだけです。でも、そこには確実に、零くんの暗く沈んだ声が響いています。
「勝手に――――――終わった気に―なるな―――鞘と―――――マフライがないと―――――――しっくりこない――――時間もないな――――通信、切断―――――」
その声が聞こえると当時に、ブツン、という音を立てて通信は切れます。でも……それだけで、十分です。
僕の右で大量の浮遊砲台が宙を舞い始め、後ろでは電子でできた巨大な盾が展開する音が聞こえます。
「あいつ、どこかで迷子になってるみたいだな…みんな!ひとまずこいつらを殲滅する!俺に続け!」
そういって飛び出す副隊長の背に、さっきまでの狂犬のような気配はありません。ただ、戦場に気高くたついつもの副隊長です。
「ここまで来てなんだって感じだけど…いまからでも、被害は最小限にとどめて!浅見君は引き続き、現状の観測を頼むわ!」
「はい。」
あの後、基地に帰った僕は校長に呼び出された。
「よく、あの8番隊を持ちなおさせてくれた。感謝するぞ。」
「いえ。あれも、零くんがいなかったら、って感じですから。今はいませんけど。」
あの通信の話はしていません。まだ確信がないからです。もちろん生きていてほしいけど、それがもしかしたら、ゾーラスの罠の可能性もあります。それが確認できるまでは、できるだけ情報を外部に漏らさないようにするのが先決です。
「今日は、何の用ですか?」
「こっちに来てくれんか。」
僕が連れられたのは、地下にある、比較的新しい格納庫。…というか、普段、新型GAIDOの研究をしているところです。中に入ると……僕の目の前に一体のGAIDOが降り立ちます。
機体色は深みのあるメタリックパープル。関節部からはオレンジ色の光が漏れ出ています。背中には羽のような形をした……レードムでしょうか?が取り付けられています。
「『薄暮』……おぬし専用の独自型GAIDOじゃ。」
「いいんですか?」
「ああ。この機体はICUにはいろいろあって無断で作っているから、扱いには注意してほしいがな。戦闘特化ではなく、君の得意な索敵を大幅強化してある。できるだけ銃火器を抑え、高速移動も可能じゃ。8番隊の眼ともいえるお前さんならのりこなせるじゃろう。」
「…入力されているのは?」
「リチャード・マルシンコ。アメリカの対テロ特殊部隊初代指揮官じゃ。」
「…ありがとうございます。」
薄暮に乗り込むと、一気に視界が広がる感覚に陥ります。まるでゲームの3人称視点で世界を見ているみたいです。背中のレドームを展開すると、そのジェットの推進力で飛ぶことも可能になっているようです。
「ありがとうございます。」
「……君は儂に初めて会った時、自分は凡人だといったな。」
「はい。」
「じゃが……物事をはっきりと視界に収め、剣と盾をあるべき場所に戻す。それは凡人のできることじゃが、誰でもできるわけではない。おぬしは人の痛みをよく理解しておる。………わしに言えるのはここまでじゃ。あとはおぬし自身で、終わらない夜を明かしてきなさい。」
この時の僕は、この『薄暮』が今後の僕の人生を大きく左右することになるとは、思いもしなかったわけですが。




