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「……」

氷室に誘われ、俺たちが歩いているのは、いつも訓練しているグラウンドの裏手。そこには小さな川や何本かの木が生えていて、まるで小さな森のようだ。まぁ、近くに森ならたくさんあるだろうとも思うのだが、それでも、学院内にいる間には味わえない、貴重な安らぎをあたえてくれる自然だ。

「…あの時、ありがとう。」

「?」

「戌亥君が鞘を預けてくれたとき、うれしかった。それに…あんな風に、私たちのために怒ってくれたことも。…正直さ……あんな風に思ってくれてるとか、言ってくれるとか思わなかったから。」

それはそうだろう。できるだけ、そういう気持ちは自分にも見せないようにしていたし、あそこでキレるつもりもなかった。

「勘違いするな。あいつらがうるさかっただけだ。」

「でも、怒ってくれたことと、私たちの救いになったのは事実だよ。」

「……」

「私の家、キリスト色が強くてね?昔から、そういう風習とかが強いの。この学院に入るのにもすごく苦労して…入るなら、学院内で成績を高水準で維持し続けろって言われてたの。隊長の成績は、個人もあるけど隊全員の実力や動き方も考慮される。……それまでも順風満帆ってわけじゃなかったけど、10ある隊のうちでトップ3には余裕で入るぐらいの実力は維持してた。だから…」

そこまでいうと、氷室は少し言いにくそうな顔をする。

「言いにくいなら言わなくていい。だいたい、わかる。」

きっと、いろいろな意味で心配だったんだろう。

最初の1年間は、入ってきたと思えば実戦にも出ないお荷物。やっと入ったと思えば、ろくにチームで動けない捻くれ者。

「正直、怖かったし、心配だったけど。それに、少し…嫉妬してたところもある。」

「?」

「復讐っていうのは褒められるべき動機ではないけれど……そのたった一つの目標のために地獄を見れるあなたは、本当にすごいと思う。私も努力はしている。だけど、その理由は自分のためじゃない。誰かに言われたから、それに従っているだけ…」

そういう氷室の顔は暗い。まるで、ここにくる前までの俺のようだ。やりたいことは山ほどあるのに、それにたどり着く為の目標も、手段すら示されていない。自分がどう生きるのかさえ検討がつかず、ただただ、この世界にただようー

「ねぇ。」

俺が星を見ていると、隣から氷室が、小さな声で話しかける。

「なんだ?」

「…戌亥くんは、もしゾーラス星人との戦いが終わったら、どうするの?」

「……死ぬんじゃないか?もしくは殺されるか、消されるか。」

本心だった。

ゾーラス星人を倒してしまえば、俺は目的を見失う。いまのじゃなく、生きる目標だ。

「もしいなくなれば、国や軍にとって、俺は首輪がはずれた狂犬。もしくは封印が解かれた屍兵。おいておく事さえ、危険分子。」

「ならさ。」

「?」

「もし、ゾーラス星人の闘いが終わったらさ…一緒に暮らさない?」

そう提案する氷室の頬は、わずかに上気しているように見える。きっと、俺も同じなんだろうが……いや、どうだろうか。少なくとも、この学院にくるまでの俺だとそうだ。

「俺にそばにいれば、食われるだけだぞ。」

「九条くんも言ってたでしょ?私たちが食うのが先だって。でも…あなたを食うのは、私だから。」

「狂犬を食おうとするとは、物好きだな。」

「どうだか。」

でも、俺に彼女が飲み込まれたりすれば、それこそ8番隊の存続に関わる。まずまず、あいつらとの戦争が終わるかさえ怪しい。

「条件はあるぞ。」

「なに?」

覚悟はしておけ。そう答えようと口を開いた瞬間耳に聞こえるのは、鼓膜を外側から引きちぎろうとするかのようなとてつもない警報音だ。

「学院上空にゾーラス星人の巨大戦艦多数!繰り返す!学院上空にゾーラス星人の巨大戦艦多数!1番隊から10番隊は至急迎撃体制に入ってください。」

その声に上空をみれば、かの有名な宇宙戦艦が目の前に、それも数十艦あるように見える。その光景には、恐怖の色も絶望の色もない。そこにあるのは、漠然とした「異常事態」だ。

「……平和な時間は終わりだな。」

「だね…早く終わらせよう。」

そう言って氷室は格納庫の方に駆け出していくが…無理だ。

こいつらを被害なしで壊滅させる方法は、思いつく限り二つだ。一つは、仲間の被害を無視し、全員で総攻撃を仕掛けること。もちろんこれは自爆、捨て身攻撃に等しく、失うものがあまりにも多すぎる。なら。

「待たせた!」

そう言って猛スピードで近づいてくるのは、氷室が用意をしている間の8番隊の指揮を任された九条だ。

俺も到着した晦冥を装着しその横にならぶ。

「ほかの部隊の様子は?」

「全員慌ててる。今までにない規模での攻勢だからな。」

「お待たせ!」

振り返ると、十字の盾を持ったラ・ピュセルが。

「もう少し遅くてよかったのに。」

「そんなことしてたら、隊長としての面目が立たないでしょ。」

こうして隊の前に立つときはいつも通り、その先の未来を示す光だ。九条は、その道を進むための篝火と言ったところだろうか。なら、俺はその道の後処理をする、時には嫌な予感でその道を塞ぐ陰になればいい。それも、今日までだろうが。

『みんな集まっているね。』

俺たちに一斉に入るのは、管制塔から全体の戦況を処理している会長の声。

『今回は、今までの日にならないレベルの攻撃だ。物資の消費は惜しまない。どんな手段を使っても構わない。絶対に奴らをここで足止めする。いけ!』

その声とともに、1から10番隊の全員が、背と足についたスラスターを吹かして戦艦に接近する。その横腹から放たれるのは、迎撃用のオートビームタレットの弾道。奴らが得意とする追尾型の光線が使われているようで、様々な色のGAIDOと破壊的な色の光線、光弾が同時に空をまう。

「九条くん。」

「ああ、わかってる。」

氷室がその巨大な盾を全出力をかけ展開すると、九条はその横につく浮遊砲台を広く展開する。そのまま背にかかる大きな長刀をもち、こちらも出力全開でその電子でできた刃を煌めかせる。

「戌亥。」

「…」

「戌亥くん…?」

「…少し、様子を見させてほしい。」

この規模の戦艦だ。大量の戦闘記憶を流し込まれた俺でも、流石にこのようなピンポイントの記憶は持っていない。でも、それに近しい部分は必ずあるはずだ。自分の中に眠る、あの地獄で培われた技能を、感覚を、8番隊で手に入れた視野を、取り戻した心を、全てを用いて。できるだけあの手段を使わないように。

GAIDOに積まれたミサイルポッドはミサイルを乱射し、機関銃は大量の鉛弾を吐き出す。

戦艦から放たれる光弾と大量のGAIDOから放たれる火花による硝煙が紫紺の夜空を曇らせ、飛び出す火の粉に感化され所々から炎の手が上がる。

大量の戦艦から放たれる攻撃は勢いを緩めず、しかし人の入るGAIDOは動きを鈍らせ、物資を枯渇させていく。

「このままじゃ…」

「どうする?」

「何か解決策があれば……」

スラスターを使うことで高速での立体起動を実現できる代わり、それには大量のエネルギーを使う。もともと駆動にかなりのエネルギーを消費し、兵器を行使すれば、その消費量は無論跳ね上がる。長時間駆動しようと思えば「必要最低限の兵器行使」「スラスター点火時のエネルギーの低消費化」「遠距離武器の使用制限」をかけるのが鉄則だが、いまはそんなことを言っていられる状況ではない。おかげでこちらの戦力は消耗するばかりだ。

『我が鞘。』

「……もう少し、もう少し待ってくれ。」

『…わかった。』

俺が役に立てるのは近接戦闘。ああいう大きな物に、俺が大きな打撃を与えることは難しい。

「第六天魔 火縄散弾!」

空中から九条の駆る第六天魔王が放つのは赤色の大弾幕。自動追尾性能を備えたその弾は確実に戦艦の心臓部を狙うが、それはむなしく鉄壁にはじかれ宙を舞う。

「デストロイヤー・ウィズアウト!」

報復のように放たれた大量の光弾を受け止めるのは、氷室が操るラ・ピュセルの十字の盾。だが相手の勢いすさまじく、まるで枯れ葉のように白の機体は宙を舞う。

「ガッフ…」

「氷室!ガッ―」

氷室の救援に向かおうとした九条の横腹に突き刺さるのは、戦艦の艦橋から放たれるレーザー光線。

周りのGAIDOを見れば、そのほとんどが地に伏している。

「戌亥お前、何かしろよ…」

「…………ああ。そうだな。」

覚悟は決まった。ここまでこっぴどくやられるとは思っていなかった。ゾーラスの奴らも、防衛のかなめのここを狙うとはいい戦術だと思う。だが………目測を見誤ったな。

「ここに入るんだよ。………お前らを殺すために、全部を投げうてる奴が。」

俺が不倶戴天 無頼の鞘を抜くとともに、脳内に響く警告を示すブザー音。モニターの中心には「emergency」の文字。左上には、リンク率150%の表示。

『戌亥君!やめろ!それ以上やれば、君は食われるぞ!』

「わかってますよ。その前にこっちがあいつらを食いますから。…晦冥!」

『御意に!』

答えた刹那、脚と背、肩のスラスターから噴き出す白と金の排煙。今まで様子見がてらにため続けたエネルギー、もう、ためらう必要はない。

「戌亥!お前何する気だ!また変なことする気じゃねぇだろうな⁉」

「……零くん…」

激しい耳鳴りと、強い嘔吐感。軋む骨、膨張する筋肉。噴き出す鼻血、決壊する電子回路。

「みんな離れろ!死神が何かする気だ!」

ほかの隊が危険を察知して撤退を開始する中、8番隊だけがその場に残る。

「さっさと撤退しろ。死ぬぞ。」

「バカ言ってんじゃねぇぞ!戌亥お前…」

煩いからいったん黙れ。そう文句を言う威勢はない。

「零くん!私との…!………私との約束、どうするつもりよ……」

「……」

答えられなくて済まない。そんな言葉を言う余裕もない。

そんなことを考えた時、一瞬晦冥の出力が低下する。

「なっ……」

『………行って来い。』

機械のくせに、気、使うなよ。

「……8番隊にいて、なんだかんだ楽しかった。氷室と、九条とかいうバカと。みんなを怖がらせたこと、今謝る。みんなに心配かけたこと、今謝る。」

そこまで言うと、晦冥はまたスラスターの出力を最大まで上げる。まるで、みんなの声を遮るように。

「いつかまた、この星が輝くときまで。」

俺はなぜか苦しそうな顔をする8番隊と、何が起こっているのかわかっていない他隊をしり目に、空に勢いよく跳びあがる。

「晦冥。」

『なんだ?我が鞘よ。』

「無理をさせる。それに、こんなことになるとは思っても見なかったからな。」

『構わん。』

「なら……今だけ…今だけ、人のために、この刀を振るわせろ。」

『よかろう。なら、絶対に仕留めろ!』

俺はその声に目を閉じ、目の前に迫った戦艦の気配を感じ取る。いける。

「七飛ばし。八で……………………無双!!!!!」

俺はスラスターを今まで以上に吹かす。瞬間、一番奥に位置していた母艦以外の浮遊戦艦はすべて爆発四散する。

俺は最後の戦艦に乗り込むと、中にいるゾーラスの戦士たちを一合いずつで首をはねる。俺が目指すのは一番奥。そこだけだ。

「お前が、この艦隊の司令官か?」

「お前か。我が創造物たちを、我が戦士たちをいとも簡単に消し炭にしてくれたようだな。それにそのGAIDO、われらが滅ぼした星の者の魂が入っているというではないか。もう一度殺されに来るとは、愉快なものだな。」

「……晦冥。いけるか?」

『お前の言葉を借りるなら…無論だ!』

「いくぞ!」

俺は晦冥と一致させる。そのまま俺は











以降、戌亥 零およびGAIDONo.0「晦冥」、音信不通。

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