獰
俺に機体凍結と無期限の待機命令が出されてから半月。
今日も俺は、ほかのメンバーが出撃している合間を縫って、不倶戴天の手入れをしていた。
刀を鞘にしまおうとすると、スピーカーから音声が流れる。
『8番隊管轄下で怪人発生。繰り返す。8番隊管轄下で怪人発生。』
廊下で、教師の連中がひどくバタバタしている。それはそうだろう。8番隊は絶賛交戦中。今回何も言われていないということはエリアα。今言っているのはエリアγ。少なくとも30分はかかるだろう。なら、選択肢は一つだ。
「戌亥。どこに行くつもりだ。」
「勉強道具を取りに行くだけですが何か?」
「ああ。ならいいぞ。」
襲撃現場は混沌と化していた。
いくら頼んでも救援は来ず、取り残された市民は悲鳴を上げることしかできない。
「ゲゲゲゲゲゲっ。いい気味だぜぇ。今までさんざん8番隊の奴らにやられてきたからなぁ。—ん?おまえ、誰だ?」
怪人のリーダーだと思われる奴は、こちらを向くと楽しそうに笑う。
「おい、こいつ8番隊の野良犬じゃねぇか?GAIDOにも乗らずにどうし―」
これ以上聞く気はない。
「六つで骸。」
俺は地面が沈み込むほど地面を踏みしめると、その勢いを使って周囲にいる怪人を一掃する。刺し、斬り、突き、切り捨てる。
周りの民衆の目も、救世主を見るものではなく、新たな敵を見るかのようだ。それでいい。それがいい。あいつらみたいに無駄に俺にかかわろうとすると、不幸になることは見えているんだ。
あいつらが到着するころには、俺の下に死体の山が積みあがっていた。
「もう終わった。」
「お前……これ、全部生身でやったのか?」
「……異次元のレベルじゃない。あなたを突き動かすのは…………なんなの?」
1週間後。
俺は地下にある独房に収容されていた。
どうやら、上が俺の力を危惧したとのことだ。会長がどうにかできないのかとも思うが……
そして今。俺の周りには5人の紫色のGAIDOを纏った奴らが立っていた。
「第8番隊 戌亥 零。貴様を学院内規定に基づき死刑とする。」
そういって、あいつらはこちらに向かってこの狭い空間でスラスターを全開にし突撃をしてくる。
俺は一人の腕をつかんで巴凪げ。そのまま二人目と三人目にぶつけ、その手に持つナイフで胸を貫く。次のやつは首。その次は頭。残った二人は適当に背中から。
武器がない間は不可能だったが、こいつらが来たおかげで独房の扉をこじ開けることができた。
「……九条。」
「……褒めはしない。それより来い。」
俺がついていくと、普段は開かない校門が開いている。
そしてそこに泊まったリムジンの中から、3人の屈曲な奴らが出てくる。年齢自体は俺たちと同じだろうか。
「あいつらは?」
「留学組だ。俺たちの中でも学年トップ3の実力を持つ奴らは、怪人の比率が高い海外に留学させてもらえる。そいつらだ。一応、全員8番隊だが。」
そいつらは俺を一瞥すると、隣の九条に話しかける。
「おい九条。その赤目が例の奴か?随分野犬が暴れまわってるみたいじゃねぇか。」
そいつは俺に近づくと、胸ぐらをつかんで狡猾な目を俺に向ける。
「せいぜい頑張るんだな。野犬。」
そいつらは手を離すと、高笑いしながら教室に入っていくのだった。
「…雑音が増えたな。」
それからしばらく。
ずっと見ていたが、留学組は、ここにいる奴らのような正義感は皆無のようだ。
実戦経験をひけらかし、時には8番隊のことを「お遊び集団」という始末。
8番隊は、ほかの隊に比べて問題児が多いのは事実。だが、その言い方はいささか疑問だった。
特にそのリーダーの獅子牙は不安要素だった。
元から横暴で、それが留学先で加速したらしい。ときには、氷室やほかのメンバーにナンパまがいの孤島することもあった。正直俺は気にしてはいなかったが、いつか面倒なことになりそうな気がして監視はしておくことにした。
その間に晦冥の機体凍結は解かれ、待機命令も解除された。そうして任務に行っていても、獅子牙らは後ろで雑談をしているだけで、よくこれで留学ができたという感じだ。
それでも、俺にとっては関係のないことばかりだった。
この日までは。
その日の昼休憩の時間だった。
その前の任務で、俺がいつものように刃を振るっていることに腹がたったのか、最初は俺の悪口から始まった。だがそこからだんだんとエスカレートしていき、最終的には九条と氷室の悪口に発展した。
「なぁ、氷室。戌亥とかいう野良犬一匹に振り回されて、まだ隊長ごっこやってんのか?俺が代わりにやってやってもいいんだぜ?」
「拒否します。それに、隊長に任命されたのはあなたではなく私です。」
「はっ。よく言うぜ。あんだけ振り回されてるおかげで、8番隊は本部の笑いものだってのによ。」
「お前たちの方こそ、留学先で何を学んできたんだ?ここ最近見ていたが、お前ら、訓練どころか任務の時ですら後ろで話してばかりじゃないか。責任が足りないんじゃないか?」
「あぁ?エリートぶるなよ九条。お前こそ、そこの野良犬に立場盗られた薄汚れ雑巾だろが!」
獅子牙は九条をけり倒し、徹底的に床に押し付ける。そしてそれを止めようと腕をつかんだ氷室の体を押しのける。
「獅子牙君!」
「黙ってろ!」
氷室が倒れる音と、九条が歯軋りをする音。それで、俺の足が立つのは十分だった。
「ああ?おまえもボコしてほしいのか?野良犬。」
「俺は……」
本当は、普通に学校で過ごせればよかった。復讐なんてどうでもいいと思うときもあった。でも、結局俺から、復讐の火が消えることはない。
「だから…こいつらを巻き込まないために……その空気感を、俺が食わないように突き放してきたんだ。俺のノイズで壊れないように、こいつらをノイズと認識することにしてた。こいつらは、俺にはまぶしすぎるほどの正義感がある。責任感がある。」
俺の腕は、無意識に背にかかる不倶戴天の刀の持ち手をつかむ。
そしてそのままあたな…と見せかけ、獅子牙の顔面を左拳で吹き飛ばす。
「ガッ…」
「誰が触れていいといった?誰が傷つけていいといった?誰が汚していいといった⁉」
「グっ…」
「俺が!」
「「「…っ」」」
「どれだけ我慢してきたと思ってる!1年の地獄も!理不尽も!仇討なんてできやしない、恨みなんて消えやしない!その恨みでこいつらを飲み込まないために!俺がどれだけ我慢してきたか!わかってるのかっつってんだ!」
自分でも、ここまで怒りが出るとは思っていなかった。でも、もしかしたらどこかで、こんないびつな関係でも仲間だと思う瞬間があったのかもしれない。いや、あった。確実に。
こいつらに伝えたことはない。でも、みんなで訓練をしているときなんかは、少し楽しいと思うこともあった。でも、伝えなかった。伝えたら、あいつらは優しいから、俺に余計に構おうとする。
「お前らみたいな三流以下が!こいつらの正義とか責任とかみたいな”綺麗事”に泥を塗っていいわけないだろ!少しは分をわきまえろ!」
俺はロッカーに獅子牙を押し付け、その首を刀の鞘で圧迫する。こうでもしないと気が済まない。
「戌亥。もういい。俺の喧嘩を横取りするな。」
「っ…………」
腑には落ちないが、今はそうするしかなさそうだ。
「……少し、頭冷やしてくる。」
「ああ、そうしろ。こっちはこっちで何とかしておく。」




