戮
2年生になってしばらくたったころ。俺は8組のほかメンバーと共に授業を受けるようになっていた。
今なお、九条は何かといちゃもんをつけてくるが、特に気にも留めていない。
「ここがGAIDOの核とつながっているからこそ、私たちは金属でできた外骨格を動かすことができるんです。理解しました―」
座学の時間。俺たちがGAIDOに使われている技術の説明を受けているときに、突如教室内にけたたましい轟音ともいえるようなサイレンが響き渡る。
「…皆さん。授業は一時中断します。8番隊の管轄内でゾーラス星人由来の怪人反応。直ちに出撃してください!」
先生の指示で、それぞれがそれぞれの得物を取りに行く中、俺は一人、地下にある晦冥の格納庫に向かっていた。
「今日は戌亥君も出撃するのよね?」
俺が階段を降りようとすると、後ろから氷室が声をかける。
「ああ。」
「そっちは……立ち入り禁止でしょ?GAIDOならこっちの格納庫のはずよ?」
「いや、俺はこっちでいいんだ。また戦場で会おう。」
「そ、そう…」
『きたか。我が鞘。』
「鞘って呼ぶのやめろ。俺はお前の物じゃない。」
「そういう意味ではない。お前は我が怨念を形とする者。それゆえの「鞘」だ。」
「ああ、そう。」
「……なんだ、そのGAIDOは。」
晦冥を装着し戦場に降り立った俺に向けられるのは、興味というには鋭すぎる視線だ。
「……晦冥。」
「よりによってそのなまくらか。お前にはお似合いだな。せいぜい壊れないようにすることだ。」
そういう副隊長の九条の体を包むGAIDOの名は「第六天魔王」。会長情報によると、戦国の世で全国に覇を唱えた「魔王」、織田三郎信長の思考が入っている…らしい。
『晦冥…ついにでてきおったか。いつかはと思ってはいたが、まさか奴が乗るとはな。』
「だな。せいぜい働いてもらおう。」
後ろを振り返れば、そこには目を引くGAIDOがもう一体。
白と金、蒼の装飾が施された、大きな十字型の盾を持った、隊長である氷室専用の「ラ・ピュセル」。入力された魂は、ヨーロッパを希望の旗を以て立ち上がらせた「ジャンヌ・ダルク」だ。
『晦冥。封印されし武人。ここでお出ましですか。』
「私たちがやることは変わらないわ。……全員、隊列を組め。」
氷室がそう声を放つと、まるでありの群れのようにGAIDOを装着した30人が隊列を組む。その目の前にいるのは、おおよそGAIDO…つまり人と同じくらいの大きさをした「怪人」と呼ばれる、ゾーラス星人が作った生物兵器だ。
「総員、掛かれ!」
掛け声とともに、隊列を維持したまま九条の駆る第六天魔王を先頭に怪人たちの群れに突撃していく。
「…戌亥君は動かなくていいの?」
「ああ。今動いても、獲物は狩れない。」
「獲物…」
そんな話をしていると、先頭を突っ切っていた九条から通信が入る。
「奥から大型怪人…というよりは、怪獣に近い大きさのが4体。」
大型怪人—その言葉を聞いた瞬間、俺と、俺が纏う晦冥の足が同時に走り出す。
「ちょっ、戌亥君⁉一人で突っ込むのは…」
その声を無視して、解明の…そして俺の手は無意識に腰に掛けた刀「不倶戴天 無頼」の柄に。
民間人は全員逃げているようで、九条らはゾーラス星人製の怪人の雑兵を少しずつ押し込んでいている…遅い。ぶった切れば一発だ。
「おい!戌亥!!そっちはでかい怪人がいるって…」
言われる前に、晦冥から流れるモニター越しの視界に4つの大きな影が映る。大きさは大体ビル程度だ。あたまには角が生えていて、腕などの甲殻はいかにも堅そうだ。でも、小さい。少なくとも、俺が見た死者たちの記憶の中には、もっと大きなものも存在していた。
『我が鞘。』
「ああ。」
視界に怪人の全体像が映った瞬間、俺の脳内に訓練の間に流された映像のうちの一つがよみがえる。そして、同時に理解する。奴のどこが弱く、どこが強く、どこが脅威足りえ、何が脅威足りえないのか…
俺が少し体制を低くすると、肩の放出便から黒と赤の噴煙が上がり、鞘から抜いた不倶戴天 無頼は暗い輝きを放つ。
「陣形を崩すな!」
「戌亥君!九条君のところまで下がって!初陣のあなたには分が悪すぎる!!」
「……悠長なことはしてられないんだ。」
俺は通信を着る権限はないが、できる限りにその声を無視する…というか、気にならない。みんなにはすまないが、今、その声はただのノイズだ。
俺は低姿勢のまま刀の柄を握り加速。そのまま突っ込んできた怪人の一体の足を切断する。瞬間、切断面に黒色の炎がつき、その再生を阻む。
「ギャッ!」
「一つで息…」
そのまま倒れこむそいつの首を斬り、そのまま踏み台に足のスラスターを点火し跳躍する。
「二つで熱……」
跳びあがる二体目の怪人相手は、その首を重力に逆らいながら切り落とす。
「三つで仇………」
その奥から飛んでくる三体目怪人の首は一突きに。
「四つで僕………」
その下で拳を構える奴は頭から一刀両断にする。
「…五つでおしまい、また明日。」
「ばかな。あんな動き、余裕でGAIDOの駆動限界を超えている。慣性制御はどうなっている?奴の体はどうなっている?」
通信越しに聞こえる九条の疑問に、答える必要はない。
「戌亥君、もうやめて!それは戦いじゃない!ただの屠殺よ!」
静止する氷室の声に従う必要はない。俺はただ、ここにいるゾーラス星人を
「皆殺しにするだけだ。」
幸い、あとに残るのはつゆほどにも満たない雑魚。
「五つで終わりなんだが……邪魔だな。」
「戌亥退け!」
「戌亥君離れて!周りに何体の怪人がいるかわかってるの⁉あなたの動きはもうすでに駆動限界を超えてる!早く撤退して!!」
通信を聞きながら、俺は不倶戴天 無頼についた血を一振りして払う。
「お前らこそじゃまだ。離れろ。」
「どういう意味だ!」
「あなたこそ離れなさい!」
「煩い!」
俺が叫ぶと、本人たちでなく、それぞれが纏うGAIDOたちが気押されたように後ずさる。
「どけ。お前らこそ死ぬぞ。」
俺は刀を構え、その場で軽く振り払う。
「六で骸。無頼・余燼。」
刀を鞘に戻せば、体を切断されたゾーラスの雑兵は全員地に伏す。
「……それは剣術じゃない。まるで…刈り取り……」
九条はそういって立ち尽くし、氷室は目を背ける。
「どうなってんだ…血管がはじけ飛ぶぞ……」
「ほんとに戌亥かよ。」
「お前…何者だ……?」
「あなたは……どうして、そんなに…」
九条が、氷室が、俺に恐怖の目を向ける。こいつらに下手な理由を言えば、また自分たちが俺を理解できると思うだろう。
「俺は…10年前に死んだ人間だ。お前たちが見ているのは、復讐のために残った怨念だ。」
俺が変わら近くで不倶戴天 無頼の手入れをしていると、前から何人かの生徒が歩いてくる。8番隊のメンバーではないらしい。
「すごかったですね。僕たち、戌亥さんのこと応援しています!」
その目は、神を見たと嘯く狂信者たちの目だ。気持ち悪い。これなら、肝心を見ている方がまだ幾分かましだ。
そいつらが去ってくと、次に後ろから現れるのは九条だ。
「お前、自分の評価も気にしないのか。」
今の俺に評価なんて必要ない。ただ、ゾーラスの奴らを消せれば、それで…。
「評価なんて必要ない。」
「そうか……さみしいな。」
「……」
九条は俺の隣でしばらく眺めていると、後ろを向いて―
「俺はお前を認めん。お前の戦い方はただの殺しだ。守るためではない。これからお前が8番隊にいる限り、しっかりと叩きこむ。覚悟しろ。」
…そんな面倒なこと、しなくてもいいのに。
「……」
任務中。俺はいつも通り、あいつらから離れ、後ろに控える大型の怪人を刈っていた。この程度、駆らなくても時間を掛ければあいつらで何とかできそうなものだが。
「………五つでおしまい。また明日。」
俺が鞘に答申を戻した瞬間、晦冥の足がガクッと少し崩れた気がした。気のせいだと思って後ろにいる奴相手に刀を抜こうとしたときに…ほんの一瞬、膝が想定していたよりも中側に折れる。
「戌亥君、後ろ!」
「っ…!」
何とか刀を構えようとした瞬間、その横から幾弾もの弾丸が怪人を吹き飛ばす。
「「五つでおしまい」ではなかったのか?おまえのその仰々しい名の刀も、大前提頼る者がいなければ、「無頼」などという名もつけられぬということだな。」
「余計な真似を…」
「黙れ飼い犬。」
「飼い犬…」
以前は野良犬だったような気がするんだが…
「飼い犬に死なれては困る。行くぞ。」
膝を修復した俺が前にいた怪人たちを吹き飛ばすと、完全に絶命させれていなかったやつを九条が横から射撃する。面白くはないが…勝手にしておいてもらおう。
俺が敵を切っていると、氷室から通信が入る。
「二人とも、10時方向から敵の増援。二手に分かれているから、二人は先に数の多い右側を…」
その指示を聞く前に、俺は左側に駆け出す。数が多いなら、先に少ない方をやるのが楽だろう。多いのは適当に刀を振るえば当たる。
「ちょっと…」
「おい戌亥!隊長の命令だぞ!」
「…俺は、俺のやり方で殺すだけだ。」
後ろを見ると、氷室の乗るラ・ピュセルの背面にある翼のようなスラスターが大きく点火している。
「いいわ…あなたが私を拒むなら、私が無理やり合わせてあげる!」
いうが早いか、ラ・ピュセルは光の杖のようなものを振りかざし、俺の周辺にいた雑兵を消し炭にしていく。
「……お前らの勝手にしろ。」
次の日。
学校の新聞には、「漆黒の処刑人」なんて仰々しい名前の見出しで俺のピンボケ写真が載っている。ほかの生徒の話だと、地域の新聞なんかにも載っているらしい。正直迷惑だが、特に気にしてはいなかった。窓の外を見るまでは。
そこには「零」と書かれた旗を掲げる暴徒の集団、およそ200人。その手前には、学院への侵入を必死に止めようとする教師一同。俺の後ろには、何も知らずに楽しそうに過ごす8クラス・8番隊のメンバー…
「おい、戌亥。どこに行くつもりだ。」
「少し、晦冥の様子を見てくる。」
俺はその重みに慣れるために、いつも不倶戴天 無頼を背中に背負うことにしている。向かうのはもちろん、あの狂信者たちの本拠地である廃ビルだ。
新聞で読んだが、学院の予想以上に、俺の映像などが外に漏れてしまったらしい。おかげで荒廃したところの居住区に住むやつらやスラムに住む異星人たちが、「零こそが真の変革者だ」とか言って暴れているらしい。
俺が廃ビルの戸を開けると、そこにいた狂信者たちが一斉にこちらを振り返る。
「おぉ、俺たちの英雄だ!さぁ、ともに俺たちとこの腐った世界を作りなおそう。」
「戌亥様…お慕いしております……」
うるさい。煩い煩い煩い煩い煩い。
俺は部屋の中央に飾られた旗を前に不倶戴天に手をかけ、そのまま切り刻む。
「………えっ、」
「お前たちの声は、10年前のあれと同じくらいに不快だ。消えろ。」
俺は彼らの持つ武器だりなんだりを不倶戴天で無力化していく。正直、こいつを振るうほどでもないのだが……こいつらの夢を壊すのには十分だろう。
混乱し、恐怖し、困惑した奴らが逃げ惑う中、一人の少年が声を上げる。
「なんで……俺たちは、あなたを応援していたのに…」
「応援?笑わせるな。お前たちは自分たちの妄想を他人に押し付けその利を啜るスカベンジャーだ。失せろ。」
そういうと、人々は散り散りになって逃げだす。その背後から、いくつものスラスター音。おそらくは暴徒を襲撃しろと言われたか、俺を回収しろと言われた8番隊だろう。
「貴様は…何がしたいんだ。一人で泥をかぶり、憎しみを背負うだけか?」
「戌亥君、それじゃまるで…あなたも怪人みたいに―」
やはり、こいつらは、俺のことを理解していないな。
「俺はもともと、10年前から怪人だ。」
……マフラー、取りに帰らないとな。
「やはり戌亥は危険すぎる。」
「ぬぬ…それも生身で…」
「………会長には悪いが…戌亥に晦冥の機体凍結と、無期限の待機命令を貸す。いいな?」
「「ああ。」」




