3 人は二回死ぬ
誰もが知る通り、人は最大二回死ぬ。
一度目の死、すなわち肉体活動の停止はたとえ帝であっても免れない。鼓動を止めた身体はやがて朽ちていく。
しかしその魂は肉体と運命を共にすることはなく、蛹石と呼ばれる石となる。
蛹石はやがて羽化して蝶となり、来世に向けて飛び立っていく。だが、その殻を破ることが叶わなければ二度目の死を迎え、永劫にこの世を去ることになる。
未来を左右するのは、魂の強度と羽化を補佐する術士羽化師らの力量だ。
前者は己の心次第。後者は運と……財力次第。
羽化師は、人の死後を管理する魂蝶寮に所属する官人である。微睡む魂の夢の内部に入り込み、死者の抱える苦痛を癒やし、時には魂に取り憑く鬼と対峙する。誰にでもできることではない。生まれつきの才が必要だ。すると当然、羽化師の数は死者数に対し、圧倒的に少なくなる。
となれば、話は簡単だ。富と権力と欲望に塗れた都にて、熟練羽化師に羽化を担当してもらいたければ、人々は魂蝶寮の関連寺社に、この世の真心の証である金や絹を競って納めようとする。
あえなく富と運に見放された死者の魂は、羽化師に見えることもない。やがて希望の光を失って、ただの石ころになり薄暗い堂内に放り込まれる。そして最後には、焚かれて灰と煙になり世界に還る。
だから人々は死の間際、天と銭に祈るのだ。死後、優秀な羽化師に導いてもらえますようにと。
しかし羽化と贈賄の闇深い関連性を察する者は、ほんの一握り。魂蝶寮に属する羽化師ですら、真実に触れた者は、ほとんどいない。
序章 終




