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全員殺して解決する悪役令嬢が、全員殺して解決する話  作者: 鶴屋


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第4話 エルフ達の作戦会議

 

 大公がその災厄を招き入れた時。

 国の誰しもが、彼女を『取るに足らない存在』としかみなしていなかった。


 エルフ達が興味を示したのは、アンヌが同胞たるエルフを勝手に捕らえて処刑したことと、女だてらにして伯爵であり、その領地は複数の男爵領・騎士領を束ねる広大なものであること。領民は万単位に及ぶ規模であること。


 脅迫が可能な規模であり、月々20~30名、年間で300名ほどの奴隷を“安定提供”させるにはぴったりの条件が備わっていた。


 戦えば必ず勝つ。

 彼らエルフの国の国民数は10万人。常備軍は人口の2%、2000人。予備役を含めると7000人の規模になる。

 対して、アンヌの伯爵領から動員できる兵は、かなり無理をしても1500人がいいところだろう。おまけにエルフと人間とでは、扱える魔術の練度も規模も違う。

 武器の質も、軍の数もこちらが上。戦う前から勝負は決まっている。


 だから――


 舐めてかかっていたのだ。



 ***



 エルフの国家に大損害を与えて、アンヌは去っていった。

 その日国内に駐留していた1000名の常備軍と、緊急に招集できた予備役1500名のうち、8割に当たる約2000人が殺された。


「“来い”」という呪文を唱えるのにおよそ1秒。


 100回唱えるのに100秒。

 1000回で1000秒。

 2000名で2000秒。


 途中、アンヌは「喉が枯れた。ちょっと休憩」とつぶやいてのど飴を舐め、水筒の水を飲んだ時間を含めると、3600秒。

 ちょうど1時間。


 それが、エルフの軍を壊滅させるのに要した時間だった。


 心臓。

 脳。

 両肺。

 頭部。


 距離も装備も無関係に、主要な臓器を部分的に召喚された。アンヌの魔術は即死そのものであり、避ける術はなく、防ぐ方法もなかった。


 空間そのものを操る超高度な魔法だ。彼らエルフの魔術知識のはるか先を行っている。おまけにアンヌ自身の身体能力も素晴らしく高い。犠牲を覚悟で距離を詰めても、空間転移で再び距離をとられてしまう。


「撤退の判断を誤った……!」


 エルフ軍のトップ、ペルタス将軍は銀髪交じりの金髪を掻きむしって己の無能さを呪った。


 逆上していた。


 人望厚いスタール大公があんな目に合わされ、大公の後継者として国民的なアイドル扱いされていた長男ロイドと長女サファイアがむごたらしく惨殺された。


 エルフではなく人間にだ。


 さらにあの女は評議院に登院していた議員たちの手足を詰め、『来月より毎月、あなた方のトップから順番に20人殺しに伺います』と大声で宣言して国を去ろうとしたのだ。


 ただで帰せるわけがないではなか。


 議員を人質にとることもなく、虐殺をした女は街道を悠然と歩いていく。


 ペルタス将軍は速やかに軍を招集し、十重二十重に陣を組んでアンヌに襲い掛かり、そして――


 彼以外の戦闘に参加した者は、ほとんどが殺された。


 アンヌを攻撃する前に戦意を喪失した者と、攻撃せずに逃げだした者だけは生き延びた。ペルタス将軍は後者だ。もっとも彼の場合、『なるべく殺さずに捕らえろ』と命令したことが生かされた理由かもしれないが。


 それだけではない。目の前の光景が信じられなかったのだ。


 空間、あるいは次元そのものを操る魔法。

 そんなものを人間がああも軽々と扱えるなど、誰が信じられるというのか。何かしらのトリックを疑い、解析しようとして無駄な死を積み重ねた。


「これからどうする?」

「来月も来ると言っていたぞ」

「“トップから順番に20人殺す”とはどういうことだ?」

「スタール大公も登院していた評議院の議員も両手足を詰められたショックで廃人同様だ。とても政務に戻れる状況ではない」

「「「「どうする????」」」」


 実質的なトップ不在。指揮すべき政治家は軒並み重傷を負って退場している。

 おまけに国境全域を覆う結界に阻まれて、彼らエルフは帰国することはできても出国することはできない。


 今現在、彼らエルフの国は麻薬を輸出し、稼いだ外貨で食料品を輸入している。国民が出国できないとなれば、遠からず食べる物がなくなってしまう。では人間の奴隷に食料を買いに行かせるか? 論外だ。監視もつけられない状況で、逃げられるのが関の山だ。


「うろたえるな!」


 ペルタス将軍は、怯えつつも不安げに囁き合うエルフ達を一括した。


「臨時議会を招集する。先回の選挙で評議員になり損ねた者、我こそはという気骨ある者、大貴族の有志を募れ。あの悪魔、いや魔王が再度この国に来るまであと一カ月しかないのだ。国家一丸となって統一した見解の元に動かねばならん。急げ!」

「はっ!!」


 一日にして、政務を担う政治家が再起不能にされ、軍も半壊した。

 国家的な危機に対し、エルフ達は連日、喧々諤々(けんけんがくがく)の議論を繰り返し――


『和平交渉するしかない』


 そういう結論になった。



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