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全員殺して解決する悪役令嬢が、全員殺して解決する話  作者: 鶴屋


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第25話 魔女と化け物


「いったん国に戻るわ。次に会えるのは何年先になるかねえ」


 徹夜で語りつくし、さらに3日ほど居座って飲み食いした挙句、ジュリエッタはそう言いだした。手元には、『そろそろお戻りくださいお願いします』と書かれた手紙がある。伝書鳩で届けられたものだ。

 領地の境界に張られた結界はジュリエッタ以外のエルフにはいまだ有効で、アンヌの領地にエルフが入ることはできない。


「あー……。そうそうアンヌ。たぶん次が最後の粛清になると思うけど、とんでもないのがあの“集落”に産まれたのに気づいてる?」


 アンヌはちょっと嫌な顔をした。


「何よその思わせぶりな物言い。ジーボルグもそうだったけど、流行っているの?」

「ああ。いたわね。せっかく『“集落”のゴーレムに気をつけろ』って忠告されたのに、ろくに下調べもせず突撃して瀕死の重傷を負ったうぬぼれ屋さんが。

 平和が長続きしすぎてあまりにだらけすぎじゃないの? 

 あのジーボルグがあえて曖昧な物言いをしたのも、その辺きちんとするよう警告するためだったんじゃないの? 私の目にもかなりなまってるように見えるし」

「……返す言葉もないわ」

「気をつけなさいよ、私のためにも。気兼ねなく話せる友達は貴重なんだから。

 じゃあね」


 背中を見せ、手をひらひらと振ってジュリエッタは去ろうとする。


「待って! とんでもないのって何よ。子供を保護する際に見つけたんでしょう?

 わたくしも近くにいたけど何も感じなかったわよ」


 ジュリエッタが立ち止まり、言葉を選んで喋り出した。


「あー……。私が言っている方はアンヌの命にかかわる話じゃないから知らなくても大丈夫。次の粛清に行けば分かる。ある意味であなたは負けるわ。勝ちようがない。

 でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あれにはあなたの“やり方”では勝てない。ただそれだけ。

 繰り返すけど、『粛清に行けば分かる』。下調べしてるうちは何も出てこないよ」

「何ですかそれは……?」

「今説明しても絶望されるだけだからさ。今度こそ、じゃあね。“行け”」


 転移魔法を唱え、ジュリエッタの姿が消える。

 アンヌは呆然として立ち尽くした後、この状況からの負け筋を何日も必死に考えた。


 そして、どうしても思いつけないまま、粛清の期日が来た。



 ***



 リアド湖畔の森に着いてすぐ、アンヌは違和感に気づいた。


 空気が澱んでいない。


 つい数日前。ジュリエッタと共に訪れた時は、死臭と疫病がもたらす糞尿の臭いにまみれていた。今は違う。布で口と鼻を覆う必要がない。ためらいなく深呼吸できる。


(いったい何が起こったのだろう?)


 ジュリエッタから警告されたこともあり、気配を消して慎重に都市部へと侵入する。


 木で作られた建物のあちこちは崩れたままだったが、そこかしこに転がっていた死体は劇的に減っていた。観察していると、2本足をした小型のゴーレム――小型と言っても3メートルほどの大きさがある――が駆動し、機敏な動きで死体を街はずれの火葬場へと運んでいる。


 土砂によってふさがっていた水路も多くが復旧し、道に糞尿が逆流してあふれかえる地獄はなくなっていた。

 瘦せたエルフ達が、灰を入れた湯を使ってどんぐりのあく抜きをしている。大きな鍋に入れられたどんぐりの量は多く、10人や20人ではきかない集団の手で集められたのだろう。

 かつて麻薬畑だった場所には、じゃがいもが植えられていた。葉の大きさからするに、10日前に植えられたものが大半のようだ。ここでも痩せたエルフ達がいて、芋の葉に群がろうとする害虫たちと格闘していた。


(いったい何が起こったのだろう……?)


 最もありそうなのは、ジュリエッタが復興要員を派遣した場合だが……それはないはずだ。ないと信じたい。無断でそんな真似をされてはさすがに看過できない。彼女と戦争になってしまう。

 いかに親しくとも踏み越えてはいけないラインがあって、仲が良いからこそ通さなければならない筋がある。それはジュリエッタも承知のはずだ。


『とんでもないのがあの“集落”に産まれた』


 ジュリエッタの言葉が頭によぎる。

 その『とんでもないの』とやらがこの復興の立役者ということか。


 アンヌの前を、死体を担いだゴーレムが通る。遠隔操作のゴーレムだ。疫病がうつらないようにするためだろう。


 ゴーレムを操る者の魔力を探知することは簡単にできた。それほど遠くにはいない。都市を見晴らせる高台の上にいる。

 罠の可能性も考えて転移魔法はあえて使わず、アンヌは徒歩でその場所に向かった。


 高台の上には、10人以上のエルフが居た。

 ひっきりなしに伝令役らしきエルフが出入りしており、1人の男が指示を出している。他のエルフはその男の指示に従ってゴーレムを遠隔操作しているようだ。


「見違えるほどの復興ぶりに驚いたわ。あなたが今のこの国で一番偉い人みたいね」


 アンヌが声をかけ、声をかけると同時に男の思考を読んだ。いつもこの国で粛清する際にしているように。


 男の情報が、心が流れ込んでくる。

 彼が何者であり、何を考え、どういう立ち位置にいるのか。今のこの国で何番目に偉いエルフで、彼の上に指示役がいるのか、いないのか。


 そして――敗北を悟った。


「………………これ、は……っ!」


 アンヌはその場に両ひざを突き、急激にこみ上げる吐き気を押しとどめるのに必死になった。


 勝てない。

 なるほど勝てない。勝ちようがない。

 ジュリエッタに言われた通りだ。


 こんな――こんな化け物が産まれるとは、想定外だった。


「ああ。なんてことだ。まさか私ごときの前に来られるだなんて!!」


 男が叫んだ。満面の笑みを浮かべながら。

 絶望と、避けようがない敗北感を抱きながら、アンヌは歯を食いしばって立ち上がった。


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