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全員殺して解決する悪役令嬢が、全員殺して解決する話  作者: 鶴屋


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第24話 後始末の夜

 

 日が落ちて、夜になった。

 アンヌとジュリエッタの前で、高価なシルクをふんだんに使ったドレスが燃えて灰になっていく。燃えているのはドレスだけではない。下着にロンググローブ、靴に小物入れの袋。疫病に汚染された可能性があって燃やせるものは全て燃やした。

 ネックレスやイヤリングといった宝飾類は外され、金属製の鍋に湯を入れて煮沸された。

 魔女とエルフの女帝はともに裸になり、熱湯を互いの身体にかけあった。


 人目につく危険はない。

 アンヌの伯爵領、その外れにある疫病対策の簡易設備だ。

 衣類を焼却処分するための焚き場があり、その近くには人間についた菌を熱湯消毒するための簡素な――湿気がこもって腐らないよう常時すきま風が入ってくる――浴場があった。

 この時代、火や熱湯で疫病を食い止められることは広く知られていた。


「うー。熱い湯と寒い風が交互にくるのきっつい」


 湯を吸った金髪を手で絞りながらジュリエッタが愚痴る。張りのある豊かな乳房がふるふると震える。素肌はどこもかしこもが、透けるように白い。


「仕方ないでしょう。皇帝だろうが教皇だろうが、もちろん領主だろうが、疫病を領内に入れるのは認められないわ」


 アンヌもジュリエッタと同様に珊瑚朱色の髪を洗い、縛ってまとめ上げていた。こちらは若返ったために、花のつぼみのような瑞々しい身体つきであり肌の張りであった。


「アンヌあなた、あの“集落”に行くたび毎回これやってるの? “来い”」

「当然でしょう。……仕立て屋から揉み手されるようになったわ。ここのところドレスを新調してばっかりだから。“来い”」


 2人はそろってタオルを召喚し、そろって身体についた湯を拭いた。タオルの材質も同じリネンだった。


「さもありなん。安物の服を着ていけばいいのに。わざわざドレスで行って現地で着替えることもあったんでしょ? 完全に無駄じゃないの」

「こだわりはなかなか捨てられないものね」

「んー……? 勘で言うけど、それがアンヌにとっての死装束……いや、喪服か?

 これから殺す相手の命に敬意を払うための。

 思い返せばそのスタイル、パーティ組んだ時から変わってないし」

「黙秘します」


 衣類が燃え尽きる。

 2人はそれぞれの場所から替えの服を召喚し、使用人を呼ぶことなしに交互に手伝いながら着替えを済ませた。


「ねえアンヌ。ついでにここで鍋をつついて酒盛りしない? 

 屋敷の使用人に気をつかわせずに済むし、火も使えるし、薪に鍋に窯もあるし。食材は肉と酒をちょちょいと召喚してさ」


 にぃ……と、ジュリエッタが笑う。悪い笑みだ。


「皇帝になっても、わたくしより破天荒なままねぇ」


 アンヌはメモ帳とペンを召喚すると、『肉と酒を求む』と書いて屋敷の厨房へ送った。

 ほどなくして彼女の要望はかなえられ、2人きりの鍋パーティが始まった。


 よく飲み、よく食べた。

 一介の冒険者だった頃のように。


『魔王を討伐する』


 その目的のために集まった仲間は、討伐後にそれぞれの道を進んだ。


 ある者は教皇となり、ある者は皇帝になった。

 ある者は鍛冶屋から日用雑貨屋へと職を替え、ある者は魔王の残した呪いを浄化するために僻地で暮らし、そこで天寿を全うした。


 そしてある者は、伯爵という中途半端な地位に収まり、周囲から魔王のごとく恐れられている。


「あの頃は必死だったなぁ……。魔王を倒して、倒した後の後始末をして、その道中で皇帝なんて面倒くさい神輿に担ぎ上げられて。ずいぶん遠いところまで来たもんだ」


 箸を器用に使い、鍋に投入した肉の色を確かめながらジュリエッタが言う。


「そうねえ。ジュリエッタも過去をしみじみと振り返るくらいには老けたのね」


 アンヌは肉をさほど取らず、野菜やきのこ類を選んで取った。


「あのなーアンヌぅ。皇帝って面倒くさいんだぞ。四六時中監視がついててろくに酒も飲めない。肉食なんざもってのほかだ。月に2、3回、こっそり抜け出して、1人で狩りして1人で血抜きして1人で焼いて食ってるんだぞ。泣けてくるだろぉ?」

「皇帝失踪の責任をとらされる護衛が可哀想ね」

「薄情な。そっちに同情するのか」


 エルフは肉食をしないとされるが、ジュリエッタはアンヌが呆れるほど食べ、おかわりを何度もした。

 酒もかなりの量を飲み、ほのかに頬を赤らめたあたりで酒杯を置いた。


「アンヌー。余興に腕相撲しようぜー」

「けっこう酔ってるわね……」

「気にするな。負けた方が恋バナな」

「あなたねぇ。わたくしに恋人ができると思ってるの?」

「お硬いからなぁアンヌは。じゃあ言い寄ってきた勘違い男を振った時の面白エピソードを教えてよ。ツラは私の次くらいいいんだからいくらでもあるでしょ」

「自己評価が高すぎる悪癖も変わってないわね。はぁ。……よろしいわ。わたくしが勝ったら皇帝陛下が面白おかしく振られた話を聞かせなさい」

「んー……。あったかな。そんな面白い話」


 アンヌが大地に寝そべり、肘を平らな岩の上に置き手を突き出す。

 ジュリエッタも同じく寝そべり、同じ姿勢をとった。

 通常、腕相撲は椅子に座り、テーブルなどの台の上で行うものだ。しかしこの2人の場合、腕力に耐えられるテーブルがない。


「「レディ……」」

「「ゴー」」


 その日の夜。

 伯爵領の外れで地震が起きた。


 震源地を確認に来た兵士はこの世の者とも思えないほどの美貌の女と、美貌の少女を見つけ。

 驚いている兵士に、2人はバツの悪い顔で謝ったという。


「……まったくもう。おかげでしばらく、あの場所は使えなくなったわ」

「ごめんなー。修繕費用は皇帝宛てにツケといて」

「面倒だからしません。そこまでうちの内所は厳しくありませんし」


 アンヌの屋敷に向かい、2人は夜道を歩いていく。

 転移魔法を使えば一瞬で着くのだが、ただの一個人でいられる時間を長引かせたかった。アンヌも、ジュリエッタも。


「ところで勝敗どうする? 割れた岩がアンヌの手の甲に先に当たった。その直後に私がよろけて地面に手の甲がついた。

 これってアンヌの負け? 私の負け?」

「地面の負けでしょう。貧弱すぎる」


 澄ました顔でアンヌは言うと、ジュリエッタは大げさな仕草で肩をすくめた。


「地面に恋バナは聞けねえなあ……」


 星の綺麗な夜だった。


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