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全員殺して解決する悪役令嬢が、全員殺して解決する話  作者: 鶴屋


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第21話 それはただの因果応報


 もし仮に。

 医学が未発達で、抗生剤の製造開発がされていない時代に大規模な疫病が発生した時。

 人々はどうするか?


 土地を捨てて逃げる。

 見知らぬ者との接触を避け、家族だけで引きこもる。


 大まかにはそのどちらかだ。

 貧しく、食料が備蓄できない者は速やかに逃げた。

 大きな屋敷を持ち、食料の備蓄と備蓄を守れる私兵を備えた大貴族は各々の屋敷に引きこもった。

 中途半端な立ち位置の者は中途半端な行動をとった。


 救援のあてはない。

 中央政府は瓦解。軍も瓦解。

 疫病発生から1ヵ月経ったが、その猛威は止む気配はない。数千人分の死体が腐りながらも放置されたままだからだ。片付ける者もそれなりにいたが、死体の半数を処理したところで疫病にかかり新たな死体となった。


 さて、この状況下で。

 都市に残ったはいいがわずかに備蓄した食料も尽きてにっちもさっちもいかなくなり“無敵状態”となった身分の低いエルフは何を考えるか?

 十分な食料を備蓄し、衛生が行き届いた大きな屋敷で家族と共にぬくぬくと暮らしている身分の高いエルフを見て、何を考えるか?


「「「安全なところに引きこもりやがって……!」」」


 それは、自然発生した怒りだった。

“家族に食べさせるものがない”

“自分が食べるものすらない”

“すでに疫病に感染しているかもしれない”


 大貴族の屋敷へ向かい、物乞いしても駄目だった。

 固く閉ざされた門。中にいる私兵から矢を射かけられ、ほうほうのていで逃げ出した彼らは、生死の際で恨みを募らせていた。


 そこへ、アンヌの粛清の日が来た。


 くしくもその月の粛清対象、国の上層部ランキング20位は『大量の備蓄とともに引きこもった身分の高いエルフ』だった。


 公爵クラスの大貴族に侯爵、伯爵クラスの準大貴族。

 麻薬取引でのし上がった大商人。

 救済を放棄した司祭。


『当主が殺されたらしい』


 その噂が出ただけで、暴動の火種としては十分だった。

 大量の“無敵のエルフ”が押し寄せて門を破壊し、屋内に侵入し、食料を奪い、邪魔する者は殴りつけた。


 貴族たちには、100人程度の私兵がいたが関係なかった。


 不公平への怒り。見捨てられたことへの激しい恨みを抱えて集まった群衆が200人以上。時間が経てばさらに増える。

 飢え死ぬか略奪するかどうかにまで追い詰められた彼らを前にして、私兵たちは我先にと逃げた。


 この日。

 リアド湖畔の森のエルフ達は、他ならぬ自分自身たちの手で残る上層部を血祭りにあげた。

 救済されなかったことへの意趣返しと、わずかな食料を手にするために。



 ***



 安全な場所で私兵に囲まれ食料を貯め込んだ大貴族は、群衆からの恨みを買って焼き討ちされた。

 さてそれでは、安全な場所にいるものの持てる備蓄を可能な限り放出した場合はどうなるだろうか?

 ここに一つのモデルケースがある。

 都市から離れた聖堂。リアド湖畔の森のエルフ達が足しげく通う教会での話である。


「いったい何を考えているんだ!? なぜ国民に麻薬を配った!?」


 軍服を着たエルフが、司祭の服を着たエルフの胸倉をつかんでいた。

 近くには顔を腫らした僧侶が倒れ、苦痛の呻きをもらしている。さんざん殴られたらしい。司祭服を着た男も追加で殴られ、両方のまぶたが大きく腫れていた。


「仕方ないじゃないですか……。もう、食糧がないんですよ……。残るのは種芋ばかりで、手を付けたら飢え死にます。庭に植えているのはまだ収穫できない。ろくに育ってませんから……げほっ……」

「だから麻薬を配るのは違うだろうが!?」

「どれだけ金を積まれても、もう、ないものはないんです……」

「話を聞けよ!」


 軍服を着たエルフが司祭を殴る。司祭が殴られながらも唾を吐きかけた。


「てめえ!」

「『あれだけ寄付したのに』と言われても! あんたみたいな怖い私兵を差し向けられて脅されても! 

 備蓄は早々に配り終えて、次の収穫までないものはないんです!! 

 だから! せめてもう助からない者たちに! 痛みを和らげられる麻薬を配る以外に何ができたんですか!?」

「………………」


 振りかぶった拳を、軍服を着たエルフは力なく下に落とした。

 司祭は、半笑いを浮かべながら泣いていた。


「最初は、絶対に助からないようなエルフだけだったんです……。そうしたら、麻薬と知らずに疫病に効く薬を配っているとの噂が膨れ上がって……。

 誤解を解いたら、その場で殺されていた……!」


 司祭の嗚咽が、教会内にこだまする。


「殺したいなら殺せばいい。私は聖職者にあるまじき行為を、ヒトではなくエルフに麻薬を使うように促したのだ。極刑に値する。それは分かってる。

 だがどうしたら良かったのですか!?

 これでも必死にやりくりしたんですよ!?

 蜂起した奴隷たちをすぐには殺さず、使い潰す量の麻薬を打って! 1日23時間畑作業をさせて! 麻薬畑すべてを農作物用の畑に転換して! それが限界に来ると奴隷を全部口減らしに処分した! 食料は節制して、全てエルフ達に渡したんです。

 これ以上、どうしたら……!」

「……はぁ。まーた腹が立つ話を聞いたわ。気分が悪い……」


 すすり泣く司祭の声に、女の声が重なった。


 軍服のエルフと司祭のエルフが声のする方を見ると、珊瑚朱色の髪にトパーズの輝きを宿す瞳。濃紺のドレスを着た少女がいた。


「虐殺の魔女か」

「そう呼ばれているわね」

「さすがにやりすぎたかも、なんて思った矢先だったけど安心したわ。

 この国の連中はどこまで行ってもカスの肥溜めよ。存在を許したら、わたくしのいない隙を見計らって領民に迷惑をかけてくるわ。間違いない」

「不快に思うのももっともだが、こいつはこいつなりに追い詰められた上でのことだ。

 せめてあんたの代わりに俺が楽にしてやっても構わないか?」

「はぁ……。あのさぁ……」


 アンヌは呆れながらの大きなため息をついた。理解力が著しく低い愚鈍を相手に見せる苛立ちをあらわに、軍服を来たエルフを見る。


「私の粛清対象はあなたの方。“来い”」


 エルフの心臓が、心臓だけが、アンヌの足元に落ちて赤い血だまりをつくった。

 躯と化した軍服のエルフが教会の床に倒れ落ちる。


「じゃあね」


 アンヌは司祭に背を向けた。


「え……あの。わたしを助けるために来てくれたのか? どうして?」


 去り行くアンヌの脚が、ぴたりと止まった。


「食い詰めて中途半端に麻薬の薬効にすがる痴れ者が“上”と認められるわけがないでしょ。因果応報のツケを食らって勝手に殺されてろ」


 今度こそ立ち去ったアンヌと入れ替えるように、うつろな顔のエルフ達がゆっくりと、しかし断固たる意志の元に司祭のもとへ押し寄せて来た。


「くすり……を……」

「くすりを寄こせ……げほっ……」

「クスリをくれええええ、今すぐ。くれないならころすぅぅぅ」


 麻薬汚染されたエルフ達が、司祭を取り囲んだ。


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