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全員殺して解決する悪役令嬢が、全員殺して解決する話  作者: 鶴屋


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第16話 総力戦の結末


 太いソーセージのパリッとした歯ごたえ。あふれる肉汁の味。

 ケチャップの甘みと塩み。シャキシャキとしたレタスの歯ごたえ。そして全てを包み込み調和するふすまの入ったパンの味わい。


 それを豪快にかぶりつきながら――


 甘ぁいトロピカルジュースで、飲み干す!!


 中身はマンゴー、パイナップルにココナッツのブレンドだ。実にフルーティ。


「激しい運動の後の食事は美味しいわね。……おかわり頼むか。“来い”」


 執務室からメモ帳と万年筆を召喚し、『ホットドックセットをもう一つ追加。10分後に受け取り』と走り書きして屋敷の調理室へ戻す。後は目ざといシェフが見つけて作ってくれるだろう。


「あっちはこりないわね」


 アンヌがつぶやく。


 偽アンヌ人形のストックが4つ減り、すぐに次の1体も減るだろう。


 立て続けに主砲を4回もぶっ放したでかぶつは、反動で壊れかけた身体で次の1発を放とうとしている。


(負けが込んだヘタクソが賭場で破滅するパターンと一緒ね……)


 意固地になっているのだろう。

 命を引き換えに絶大な威力を誇る主砲を使ってしまった。それも使い捨て前提のただの命ではない。高い魔力を有した――魔術師としてかなりの尊敬を集めていただろうエルフの命を使った。


『1発で仕留められないのなら2発目を放つ。2発目でも仕留められないのなら3発目だ。次こそ死ぬはずだ。もう2発も当たっているのだから……』と、いったところだろう。


 引くに引けなくなっている。周りが見えなくなっている。

 実際には当たっていないことにすら気づかないまま。

 偽アンヌ人形が崩壊する際に残す“当たったという手ごたえ”に騙されている。


 むろん万が一はある。


 あれがエルフ達の演技で、観戦しているアンヌに照準を向けて主砲をぶっ放す可能性も残っている。だからアンヌも、万が一を想定していつでも避けられるよう対策はすでに施してある。


(見る限りじゃ死ぬまでタコ踊りを続けそうね)


 アンヌは淡々と偽アンヌ人形を作り、適当なタイミングで挑発と攻撃をし、ゴーレムが無駄撃ちを続けるよう誘導した。


 そして6発が放たれ、7発目を放とうとしたとき――


 ガイア級のゴーレムは崩壊した。


 樹齢数千年の大木が内部から腐り、がらんどうになって自重に耐えきれなくなった時のように。

 耳につく軋み音を立て、重力に引かれて崩れ落ちた。


「ううむ。ややしくじった……」


 優雅に2本目のホットドックを食べ終え、魔女はつぶやく。

 淑女しぐさをほんのりただよわせながら指と唇についたケチャップをハンカチで拭き、追加したトロピカルジュースも飲み干す。


「飲み物の選択をしくじった。二杯目は紅茶にすべきだった。後味が甘すぎる」


 遠くから、今度こそパニックになったエルフ達の狂乱の声が聞こえてくる。

 巨大ゴーレムに注がれていた魔力の流れが途絶えていた。それはそうだろう。頭部から胴体にまで大きな亀裂が入り、全ての脚は崩れて立つどころか動くこともままならない。


「“来い”」


 ふぁさ……と音がした。布が地面に落ちる音。

 漆黒のライディング・ハビットがアンヌの足元に落ちていた。

 動きやすいのが取り柄の、何のへんてつもない乗馬服。しかしこれをアンヌが着ると『これから死刑執行ですか』と囁かれることがある。


(失敬な)


 アンヌが白い魔法衣を脱ぎ、黒い革服に着替えた。返り血がついても目立たないように。あとで綺麗に洗い流せるように。

 畳んだ魔法衣の上に杖と帽子を置き、「“行け”」と転移呪文を唱えて宝物庫へ戻す。


「戦いは終わったし、殺すか」


 魔女の物騒な言葉を聞く者は誰もいない。怒りの感情もない。

『そろそろ歯を磨くか』と言う程度の気安さだった。



 ***



 広間のそこかしこで、かがり火が赤々と燃えてる。

 日は沈み、夜が来た。

 エルフ達は夜戦を想定して薪を準備し、しかし夜に入る寸前に頼みの綱だった軍神が崩壊。


 十数分の間を置いて、黒衣の“魔王”が来た。


 彼女の姿を見た時、ほとんどの群衆は我先にと逃げ出した。

 魔術に長けたごく少数の者は飛んで逃げた。

 そうでない大半の群衆は前後の見境なしに走り、自分だけは助かろうとして他人を押しのけ、結果的に大量の圧死と窒息死を産み出した。


 アンヌはただ、空から降り立っただけだ。数万人の人間が、総力戦のために一か所に集まっていたために起きた悲劇だった。


 ただし、全員が逃げたわけではない。


「あなたが指揮官?」

「そうだ。将軍代行のグラハムだ」

「あなたの“上”に何人いて、そいつらはどこにいる?」

「ふ。ふふふふ……。フフフフフフフフフハハハハハ!」


 グラハムは笑った。腹の底から笑った。

 濁った碧い瞳はアンヌを映しておらず、復讐の快楽に酔っていた。


「お前も道連れだ……! 軍神を自爆させる! 貴様のチャチな転移魔法で逃げられると思うなよ。国全域が吹っ飛ぶ規模の大爆発だ!! ははは、ハハハハハハハハハハハ――」

「ふざけんなクソ馬鹿野郎!!」


 哄笑(こうしょう)したグラハムの笑いは、途中で遮られた。

 口上の途中で十数本の矢が射かけられ、そのうちの数本が首と心臓に刺さって死んだ。

 やったのはアンヌではない。グラハム将軍代行の周囲に居た兵士たちだった。


「てめーのせいで負けたんだろうが! 何勝手にやってんだ!」

「無能なだけでも酷いのに勝手に道連れにしようとするんじゃねえよ死ねよクソカスが!!」


 話を聞いていたエルフ達が、グラハムに向かって罵声を浴びせる。

 その場に生ける脅威が、魔女がいることも忘れ、絶命した男を思うがままののしり、遺体に向けて投石した。


「はぁ……」


 アンヌは呆れた顔で小さな息を吐いた。

 つき合ってられない、とばかりに転移魔法で移動する。


 それから彼女は手近にいたエルフを尋問し、心を読んで支配者階級を上から順番に20人選定した。そして1人ずつ淡々と殺し、殺し終えると帰っていった。


「また来月の同じ日、次のトップを20人殺しに来るわ」と言い残して――。



 ***



 この日、アンヌが殺害した人数はきっちり20人だった。

 それ以上でも以下でもなかった。

 しかし後世の記録において、『魔女の襲撃により、この日、一万人近くのエルフが殺された』とある。


 切り札のゴーレムの全滅。

 総力戦による激しい疲労。

 魔力の枯渇。

 群衆の混乱。圧死に窒息死。

 将軍代行の死亡。

 とどめに支配者層に対するアンヌの“虐殺”。しかも、何月何日に殺すかはっきりと事前通告した上での。


 1つ1つのイベントが連鎖し、必然的にある事件を引き起こしていた。


「今だ!」


 奴隷たちが一斉に蜂起した。


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