第12話 「正々堂々と戦え」
(どうする?)
あれに勝てる手段ならすぐに思いつく。市街戦に持ち込めばいい。
エルフ達の居住区でゴーレムと戦い、国民たちを虐殺しながらどこかにいる操縦者を突き止めて殺す。あるいはもっとシンプルに、逃げるだけでいい。燃費の悪い兵器だ。1ヵ月も放置すれば一番でかい奴は動けなくなる。
『偉い奴から順番に月20人殺す』
アンヌが宣言したのはそれだけで、ゴーレムとの戦いは入っていない。国家との紛争において、勝利はきれいごとに勝る。
しかし、だ。
その戦法を取った瞬間から、アンヌは『正々堂々と戦え』という言葉を吐く権利を、正当性を失う。今の敵に対してだけではない。自分に対しても、かつてつるんだ仲間に対しても、これから敵対する者に対しても。
どれほどの言い訳を用意しようと、とった行動が全てを物語る。彼女が邪道に手を染めるのは、相手が先に邪道を行ってきた時のみだ。
「聞こえているか、魔女よ!」
先程戦っていたゴーレムから声がした。聞き覚えのある声だ。
「あらスタール大公。しぶといのね」
「貴様のことだからゴーレム達を下げねば民を殺すと脅してくるつもりだろう。だがその脅しは通じない。正々堂々と戦え!」
「どの口がほざくか!?」
淑女にあるまじき語彙で、アンヌは思わず突っ込んだ。
「拒否するか。ならば共倒れ覚悟でそこに居る軍神の主砲でお前の領地を狙うぞ!」
「はァン?」
アンヌはにやりと笑う。獰猛な猛獣が獲物を前に浮かべるような笑みだった。
(山ほどの大きさもあるゴーレム。仮に砲撃が届くとしても、わたくしの伯爵領を正確に砲撃するのは難しいはず。でも……)
試すにはリスクが高い。
ギガントフレーム、50メートル級のゴーレムですら進路上の草木を跡形もなく焼き払った。ガイアフレーム――“軍神”とやらはその10倍大きさだ。破壊規模はどれほどになるのか。まず間違いなく、誤射でも多数の死人が出る。
「“吹っ飛ばす”じゃなく“狙う”って言うあたり、そっちの限界が透けて見えるけどまあいいでしょう。正々堂々とここで誰も巻き込むことなく戦えと。
よろしい。
多勢に無勢であることも、ウェイト差の有利不利を全く考慮していないことにも目をつぶりますわ。こいつらを倒しきるまで、私はあなたたちを狙わないし、あなた方もわたくしの領民を狙わない。ルールにのっとり戦いましょう」
アンヌの口上の間に、ギガント級のゴーレムたちが静かに動き、四方八方から彼女をとり囲んでいた。さらにアンヌの頭上から、“軍神”が迫っていた。
見かけ上はゆっくりと、しかし実際は音を超えるスピードで。
山ほどもある巨体がしなり、ちょっとした砦ほどの大きさの脚が踏み下ろされる。
「“行け”」
近距離へ空間転移し、アンヌが攻撃をかわす。中型ゴーレムの背後へと移動し、その巨体を盾にしながら周囲の様子を伺った。
脚を踏み下ろす。
単純な動作だが、やったのは数百トンの物体だ。地面にクレーターができ、土砂が周囲に飛び散る。小隕石の落下ほどの威力があった。
直撃は避けられる。しかし周辺に飛び散った土砂に石は、当たれば致命傷となりうる。アンヌは身長175センチの淑女なのだ。分厚い装甲に包まれたゴーレムとは違う。
「“来い”」
中型ゴーレムの背中に手を触れ、部分召喚呪文を唱える。人間の胴体ほどの大きさの穴がぽっかりと空き、空洞から内部の構造が見えた。
無数のツタが絡まった中に、太く硬そうな芯がある。トウモロコシのような構造だった。空洞はない。コアのようなものも見えない。
そして――
「深めにえぐっても再生するか」
つぶやくアンヌ。
突風が起こり、彼女の身体を吹き飛ばした。
周囲のゴーレム達の翅が動いていた。殴るのでも、砲撃を放つのでもなく。
仲間を傷つけず、アンヌだけを引きはがすのに最適な攻撃だ。連携しての戦いに慣れている。
宙に浮いたアンヌに、今度は“軍神”の腕が襲いかかった。
「“行け”」
呪文を唱え、地上へと転移する。
着地したアンヌの姿を、ゴーレム達が捉えていた。素早い反応だ。
(わたくしはゴーレムの陰にいた。音も立ててないし気配も殺していた……)
視力だけではない。魔力か熱。あるいはその双方を探知しているのだろう。地面を掘って時間を稼ぐという手も通じるかどうか怪しい。
「いった」
鋭い痛みがアンヌの思考をさえぎった。痛む箇所に視線を向け、アンヌは舌打ちする。
「ち。衝撃波がかすってたか……」
小指と薬指がない。持っていかれた。
亜音速の一撃。周囲に発生する急激な気圧の変化は、死の空間となってアンヌを襲った。直撃する必要はない。人間の肉体は、圧力差という刃に耐えられるようにはできていない。
「“行け”。“来い”。“治れ”」
転移魔法でゴーレム達の攻撃をかいくぐり、次いで吹っ飛ばされた自分の肉片を召喚。最後に治癒魔法を唱えてくっつける。
コキ、コキと、小指が動いた。次いで、薬指も。
「指輪をつけて来なくてよかったわ」
この期に及んで、虐殺の魔女は軽口を叩く。
己を鼓舞するように。あるいは、己が勝つことを確信しているかのように。
「現在時刻は午前10時ちょっと。天候は晴れ。日が落ちるまでに決着をつける」
巨大ゴーレム達を静かに見上げ、アンヌは不敵に宣言した。




