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静寂を破るように、
「カチッ」という音が室内に落ちた。
非常灯がゆっくりと点り、
淡い光が図書室を照らしていく。
棚の影が形を取り戻し、雪明かりの白と溶け合う。
透と奏は、同じ瞬間に顔を上げた。
互いの目が、光の中で静かに交わる。
言葉はなかった。
けれど、笑みが自然に生まれた。
それだけで十分だった。
透はそっと、奏の手を離す。
その指先に、まだ確かなぬくもりが残っている。
冷たい空気の中、それが小さな炎のように胸の奥で灯り続けていた。
――光が戻っても、あの静けさは、たぶんもう消えない。
あの白の中で、やっと“言葉”が生まれた気がした。
透の心の声が、雪の降りやんだ空に溶けていく。
窓の外では、夜の闇がゆっくりと薄れていく。
白い屋根の向こう――
かすかな朝焼けが、雪の面を染めていた。
それはまるで、新しい季節の息吹。
“沈黙の季節”が終わり、
静かな“言葉の再生”が、確かに始まっていた。




