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小さな震えに、透は気づいた。
本を抱えていた奏の手が、かすかに揺れている。
寒さのせいか、それとも――別の理由か。
透は迷うように一度だけ息を吸い、それから静かに手を伸ばした。
そっと、その震える指先を包み込む。
「……寒いね。」
わずかに掠れた声。
けれどその言葉は、冷えた空気をやわらかく照らす灯のようだった。
奏は驚いたように透を見上げ、すぐに小さく頷く。
そして、ためらいながらもその手を握り返した。
指先から、体温がゆっくりと伝わる。
言葉の代わりに、確かなものが流れ込んでくる。
外の雪は、降り止む気配もなく静かに積もっていく。
窓の外の白が、二人の手を淡く照らした。
光の輪が生まれ、静寂の中に息づくように広がっていく。
沈黙――けれど、それはもう“断絶”ではなかった。
互いの存在を確かめるための、あたたかな間。
奏は胸の奥で、静かに呟く。
「言葉がなくても、届く瞬間がある。
沈黙が、やっと優しさに変わった。」
停電で失われた光の中で、
ふたりの手だけが、確かに世界を灯していた。
雪は降り続ける。
すべてを包み、洗い流し、
白い静けさの中で――
ようやく、言葉のない理解が息をしていた。




