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ページを閉じる音が、静かな空気を裂いた。
その音をきっかけに、奏がふと顔を上げる。
唇が少しだけ震えていた。
外では、雪の降る音が窓ガラスを淡く叩いている。
「……ねえ。あのとき、どうして黙ってたの?」
透は瞬きをひとつし、ゆっくりと視線を落とした。
その問いが指している“あのとき”――秋の教室、互いに言葉を失ったあの日のことだと、すぐにわかった。
胸の奥が、雪のように冷たく痛む。
少しの沈黙。
それは“ためらい”ではなく、“探す時間”だった。
言葉を選ぶのではなく、ずっと閉じ込めてきた心の形を、確かめる時間。
「……本当は、君の行動を見てるだけで、心が動いてた。
でも、それを言ったら、きっと形が壊れる気がして。」
静かな声だった。
けれど、その静けさの中には、何度も飲み込まれた思いが滲んでいた。
奏は一瞬だけ目を伏せ、それから微笑む。
その笑みはやわらかくて、けれど泣き出す一歩手前のように脆い。
「壊れてもいいのにね。」
その言葉は、ため息のように白く空に溶けた。
「私は、あなたの言葉に救われてた。
ちゃんと聞いてたよ。」
透が息を呑む。
胸の奥に、何かが静かに崩れ、同時に温かく広がっていく。
――壊れることは、終わりじゃない。
それは、触れ合うために必要な“はじまり”なのかもしれない。
外では雪が強まり、白い光が窓越しに差し込む。
二人の頬を淡く照らし、影を消していく。
言葉が雪のように、そっと落ちては積もり、
やがてすべての傷跡を包み込むように、世界を静かに染めていった。




