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『その手を言葉にできたら』 ― 行動でしか伝えられない彼女と、言葉でしか繋がれない彼 ―  作者: 南蛇井


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3-3

ページを閉じる音が、静かな空気を裂いた。

その音をきっかけに、奏がふと顔を上げる。

唇が少しだけ震えていた。

外では、雪の降る音が窓ガラスを淡く叩いている。


「……ねえ。あのとき、どうして黙ってたの?」


透は瞬きをひとつし、ゆっくりと視線を落とした。

その問いが指している“あのとき”――秋の教室、互いに言葉を失ったあの日のことだと、すぐにわかった。

胸の奥が、雪のように冷たく痛む。


少しの沈黙。

それは“ためらい”ではなく、“探す時間”だった。

言葉を選ぶのではなく、ずっと閉じ込めてきた心の形を、確かめる時間。


「……本当は、君の行動を見てるだけで、心が動いてた。

 でも、それを言ったら、きっと形が壊れる気がして。」


静かな声だった。

けれど、その静けさの中には、何度も飲み込まれた思いが滲んでいた。


奏は一瞬だけ目を伏せ、それから微笑む。

その笑みはやわらかくて、けれど泣き出す一歩手前のように脆い。


「壊れてもいいのにね。」


その言葉は、ため息のように白く空に溶けた。

「私は、あなたの言葉に救われてた。

 ちゃんと聞いてたよ。」


透が息を呑む。

胸の奥に、何かが静かに崩れ、同時に温かく広がっていく。


――壊れることは、終わりじゃない。

それは、触れ合うために必要な“はじまり”なのかもしれない。


外では雪が強まり、白い光が窓越しに差し込む。

二人の頬を淡く照らし、影を消していく。


言葉が雪のように、そっと落ちては積もり、

やがてすべての傷跡を包み込むように、世界を静かに染めていった。

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