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『その手を言葉にできたら』 ― 行動でしか伝えられない彼女と、言葉でしか繋がれない彼 ―  作者: 南蛇井


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3-2

本棚のあいだに、ふたりの影が並んで立っていた。

外では、雪が絶え間なく降り続いている。

窓を打つ小さな音が、静寂の中でかすかに響く。

それ以外に――世界は、何も語らない。


息をするたびに、白く淡い吐息がこぼれる。

その白が、透と奏のあいだの距離を、やさしく照らしていた。

手を伸ばせば届く距離。

けれど、どちらも動かない。

ただ、同じ雪の音を聴いていた。


透はポケットから懐中ライトを取り出し、スイッチを押す。

「……あれ?」

光は一瞬だけ点いて、すぐに消えた。

電池が切れている。

肩をすくめて苦笑する透の表情を、雪明かりがぼんやりと映す。


「仕方ないね」

奏が微かに笑う。

その声が、やけにあたたかく響いた。


ふたりは、自然に窓際へと寄る。

雪の反射光が、静かな白を室内に広げていた。

本棚の影が薄く伸び、ふたりの輪郭をやわらかく包み込む。


透はその光の中で、そっと息を吸い込む。

胸の奥で、小さな鼓動が鳴る。


「こんなに静かなのに、隣にいるってわかる。

 それだけで、何かが少しずつ溶けていく。」


言葉にならない思いが、息に混ざって漂う。

奏は窓の外を見上げ、透の言葉を聞いたかのように、そっと頷いた。


一冊の本を手に取り、ページを開く。

パラリ、と紙の擦れる音が室内に広がる。

それは、まるで“音のない会話”のようだった。


透もまた、自分の前の本を開く。

同じリズムでページをめくるたびに、音が重なり、響き合う。


雪の降る夜。

照明のない図書室で――

ふたりの間には、言葉より確かな“静けさの対話”があった。

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