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『その手を言葉にできたら』 ― 行動でしか伝えられない彼女と、言葉でしか繋がれない彼 ―  作者: 南蛇井


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88/94

3-1

放課後の校舎は、いつもより早く夜に飲み込まれようとしていた。

窓の外は、白い雪が静かに降りしきり、空は灰色の膜をかぶっている。

「早く帰れよー!」と廊下で響く教師の声も、どこか遠く。

ひとり、またひとりと生徒が帰っていき、足音も笑い声も消えていった。


図書室の中は、しんと静まり返っていた。

ストーブの赤い灯が、最後の命を燃やすように揺れている。

棚の向こうから、紙のめくれる音。

透が、新聞部の資料を箱に詰めていた。

同じ空間の別の机では、奏が生徒会の報告書を整理している。

偶然――けれど、どこか必然のように、ふたりはこの時間に残っていた。


雪の重みが窓を淡く曇らせる。

外の世界が、少しずつ音を失っていく。


「……寒くなってきたね」

奏が小さく呟く。

透は返事をしようとして、息を吸った瞬間――


バチン、と乾いた音が鳴った。

ストーブの灯が消える。

天井の蛍光灯も、一瞬白く瞬いて、闇に沈んだ。

校内全体の電源が落ちたらしい。

それに気づいた瞬間、ふたりのあいだに、完全な静寂が落ちた。


暗闇の中で、外の雪が反射して淡い光を放つ。

白が、黒を押し返すように、窓の外から室内へと滲み込んでくる。

光がほとんどないのに、なぜか見える。

その薄明のなかで、奏と透の姿が浮かび上がる。


奏は窓の方を見つめながら、小さく息を吐いた。

透は手の中の資料をそっと置き、机の上に残ったわずかな雪の明かりを見つめる。


言葉も、音も、灯りも消えた世界。

けれど――

その沈黙の中にだけ、確かに“誰かが隣にいる”という実感があった。


雪が降り続ける。

校舎の外も、心の中も、ゆっくりと白く塗り替えられていった。



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