3-1
放課後の校舎は、いつもより早く夜に飲み込まれようとしていた。
窓の外は、白い雪が静かに降りしきり、空は灰色の膜をかぶっている。
「早く帰れよー!」と廊下で響く教師の声も、どこか遠く。
ひとり、またひとりと生徒が帰っていき、足音も笑い声も消えていった。
図書室の中は、しんと静まり返っていた。
ストーブの赤い灯が、最後の命を燃やすように揺れている。
棚の向こうから、紙のめくれる音。
透が、新聞部の資料を箱に詰めていた。
同じ空間の別の机では、奏が生徒会の報告書を整理している。
偶然――けれど、どこか必然のように、ふたりはこの時間に残っていた。
雪の重みが窓を淡く曇らせる。
外の世界が、少しずつ音を失っていく。
「……寒くなってきたね」
奏が小さく呟く。
透は返事をしようとして、息を吸った瞬間――
バチン、と乾いた音が鳴った。
ストーブの灯が消える。
天井の蛍光灯も、一瞬白く瞬いて、闇に沈んだ。
校内全体の電源が落ちたらしい。
それに気づいた瞬間、ふたりのあいだに、完全な静寂が落ちた。
暗闇の中で、外の雪が反射して淡い光を放つ。
白が、黒を押し返すように、窓の外から室内へと滲み込んでくる。
光がほとんどないのに、なぜか見える。
その薄明のなかで、奏と透の姿が浮かび上がる。
奏は窓の方を見つめながら、小さく息を吐いた。
透は手の中の資料をそっと置き、机の上に残ったわずかな雪の明かりを見つめる。
言葉も、音も、灯りも消えた世界。
けれど――
その沈黙の中にだけ、確かに“誰かが隣にいる”という実感があった。
雪が降り続ける。
校舎の外も、心の中も、ゆっくりと白く塗り替えられていった。




