2
図書室の空気は、冬の午後らしい張りつめた静けさに包まれていた。
ページをめくる音と、ストーブの低い唸りだけが、時間の流れを確かめるように響いている。
奏は背表紙を指でなぞりながら、目的の参考書を探していた。
受験生たちの息遣いが、重たく静かな空気の中に溶けていく。
指先がある一冊に触れた瞬間、反対側から伸びた手とぶつかる。
――透だった。
ふたりの指が、ほんの一瞬だけ触れ合う。
その感触が思いのほか温かくて、奏は心の奥で小さく息を呑んだ。
目が合う。
けれど、そこには以前のような気まずさも、逃げるような視線もなかった。
ただ、穏やかに、冬の光の中で視線が重なる。
「この参考書、難しすぎるね」
奏が笑いながら言うと、透は少し肩をすくめて答えた。
「たぶん、先生用のやつだよ。俺も最初、同じの取った」
思わず、ふたりの口元に笑みが浮かぶ。
それは、雪の降る音よりも静かな、でも確かに“あたたかい”笑いだった。
会話が途切れる。
それでも、沈黙が気まずくない。
むしろ、言葉がなくても伝わる何かが、ゆっくりと流れているようだった。
奏は、ページの端を整えながら心の中でつぶやく。
「沈黙が怖くなくなった。
それだけで、少し前に進めた気がした。」
窓の外では、雪が静かに積もり始めていた。
白い世界が、街も音もすべて包みこんでいく。
その静けさは、もう“孤独”ではなかった。
二人のあいだに落ちる沈黙が、
まるで小さな焚き火のように――
寒い冬の午後を、そっと温めていた。




