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夕暮れの校門前。
風が冷たく、舗道を転がる落ち葉が小さく擦れる音を立てていた。
西の空は茜色に滲み、沈みかけた陽が街の屋根を朱に染めている。
奏が鞄を抱えて歩き出す。
背筋をまっすぐに伸ばしているのに、どこか寂しげだった。
透は少し離れた場所で、その背中を黙って見送る。
声をかけることもできず、ただ指先をポケットの中で握りしめる。
風が吹き、落ち葉がふたりのあいだを舞い上がる。
一瞬、視界を遮るように。
足もとに残っていたふたりの足跡を、砂埃がすぐに消していった。
奏
「何も言わない優しさと、
何も聞けない臆病さ。
その境目が、わからなくなっていく。」
透
「沈黙が“思いやり”じゃなくて、
“距離”になる瞬間がある。」
遠くでチャイムの音が一度だけ鳴る。
もう放課後も終わり、夜が街を包もうとしていた。
奏の姿が、曲がり角の向こうに消える。
透は小さく息を吐き、校舎を見上げる。
窓ガラスに残る光が、最後のひと息のように淡く揺れた。
秋風が再び吹き抜ける。
舞い上がった落ち葉が夕陽に照らされ、
やがて地面に静かに降り積もる。
――夕陽が沈み、校舎の影がふたりを分断する。
言葉の季節は終わり、
沈黙の季節が、静かに始まっていた。




