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放課後の教室。
日はもう傾き、窓の外では冷たい風が落ち葉を巻き上げていた。
誰もいなくなった机の列に、白い光が斜めに差し込む。
その中で、奏はひとり、鞄を抱えて立っていた。
透は黒板の前に立ち、新聞係の原稿を片づけている。
カサリ、と紙の音。
その音が、静寂の中でひどく大きく聞こえた。
奏は唇を噛み、意を決して声をかけた。
「ねえ、もう少し……自分のこと、言ってよ。」
透の手が止まる。
振り向いた彼の目には驚きよりも、どこか困惑の影があった。
奏は続ける。
「いつも私ばっかり見てる気がするのに、
あなたの中が、ぜんぜん見えない。」
風が窓を叩き、カーテンが揺れる。
その音が、ふたりの間の沈黙をいっそう際立たせた。
透はしばらく黙っていた。
視線を落とし、机の端に指を置いたまま、静かに言う。
「君のことは……言葉にしたら、壊れそうで。」
その声は穏やかで、けれど、どこか遠い。
奏は目を伏せる。
心の奥が、じわりと冷たく滲む。
「……そうやって黙るの、ずるいよ。」
透は何かを言いかけ、結局その言葉を飲み込む。
息だけが、かすかに白く曇った。
教室の時計の針が、静かに一つ音を刻む。
それが、ふたりのすれ違いを告げる鐘のように響いた。
窓の外では、木枯らしが再び吹き抜ける。
落ち葉が舞い、夕陽がそれを赤く染めていた。
そして――その光の中で、ふたりはただ、立ち尽くしていた。




