透の視点 ― 言葉を飲み込む日々(同時刻)1
放課後の廊下。
窓の向こうで、夕陽が赤く沈みかけていた。
床には光と影が交互に伸び、行き交う生徒たちの足音がゆっくりと遠ざかっていく。
奏はプリントを胸に抱えながら歩いていた。
一日の終わりの空気――どこか冷たく、静かに沈んでいく時間。
そんなとき、隣を歩く柚希がふと口を開いた。
何気ないような調子で、それでもまっすぐな声で。
「ねえ奏。言葉を飲み込むって、相手を信じてない証拠かもよ。」
その一言に、奏の足が止まる。
プリントを抱える腕に、少しだけ力がこもる。
「……え?」
振り向くと、柚希は笑っていた。
でもその笑みは、からかいではなく、どこか優しい痛みを帯びていた。
「怖いのは分かるけどさ。言わなきゃ、何も伝わらないでしょ?」
夕陽が二人の影を伸ばし、ガラス窓に重ねる。
その映り込んだ自分の顔が、ほんの少し大人びて見えた。
柚希は軽く手を振りながら、先へ歩いていく。
残された奏は、立ち止まったまま。
胸の奥で、何かが小さく波立つ。
柚希の言葉が、夕焼けの残光のように、消えずにそこに残った。
モノローグ。
「信じたいのに、怖い。
本音を言ったら、嫌われそうで。
――でも、黙ってたら、もっと遠くなっていく気がする。」
廊下の窓から吹き込む風が、プリントの角をめくった。
その小さな音が、沈黙の中でやけに鮮やかに響いた。




