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北條が最後のファイルを閉じ、伸びをしながら笑った。
「よし、これで最後。帰るか」
その声に、奏は顔を上げて微笑む。
「うん、ありがとう。手伝ってくれて」
ふたりはほぼ同時に椅子を引き、軽い音を立てて立ち上がる。
沈みかけた陽が窓の縁を照らし、室内の空気を金色に染めていた。
奏は鞄を肩にかける前に、ふと窓の外へ視線を向ける。
校庭の向こう――オレンジに染まった風の中で、コスモスがゆるやかに揺れていた。
光と影が花びらを通り抜け、そのたびに色が少しずつ変わる。
胸の奥に、名もない痛みがかすかに浮かぶ。
「どんなに整理しても、思い出だけは、きれいに並べられない。」
心の中でそう呟くと、彼女は小さく笑って廊下へ歩き出した。
北條の足音と並んで、ふたりの靴音がゆっくりと遠ざかっていく。
残された生徒会室。
窓から吹き込む風が、机の上の紙をひとつめくり、
その隣に――ひらりと、花びらが落ちる。
静まり返った部屋の中で、
その一枚の花びらだけが、まだ夕陽の名残を映していた。




