81/94
5
机の上には、整然と積まれたファイルの山。
角はきっちりと揃えられ、どの書類も乱れなく閉じられている。
まるでその秩序の中に、心の揺れを封じ込めようとするかのようだった。
奏はホチキスを置き、息を吐いた。
その吐息がわずかに白くなるほど、窓際の風は冷たい。
外では、夕陽を受けた秋桜がゆるやかに揺れている。
ひとひらの花びらが、風に乗ってふわりと室内へ――
指先に、やわらかな感触。
奏は思わず動きを止める。
花びらが、そっと彼女の指に触れて、すぐに机の上に落ちた。
それはほんの一瞬の出来事だったのに、胸の奥で何かが音を立てて揺れた。
――透の姿が、脳裏をよぎる。
夏の光の下、隣で笑っていた横顔。
声も、仕草も、記憶の底から淡く浮かび上がっては、すぐに霞んでいく。
奏は小さく息をのむ。
そして、落ちた花びらを見つめながら、そっと指を握った。
整然と積まれたファイルの上に、たった一枚の花びら。
その小さな乱れが、彼女の胸の中の“まだ片づけられないもの”を映していた。




