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奏は静かにページの端を揃えながら、ふと動きを止めた。
指先が、紙の薄い縁をなぞる。
その感触を確かめるように――まるで、過ぎ去った時間の輪郭をたどるように。
窓から射し込む夕陽が、机の上を斜めに照らしている。
光は奏の手元を優しく包み、その影を静かに揺らす。
ページの白が金色に染まり、空気の中で埃が小さく舞っていた。
「話すって、こんなに簡単だったっけ」
小さく、息を混ぜた声。
言葉がこぼれ落ちるように、静寂の中へ溶けていく。
「言葉を出せば、ちゃんと届く。
笑えば、相手も笑い返してくれる。
……透くんとは、どうしてあんなに難しかったんだろう。」
自分の声が、少しだけ遠くに聞こえた。
その響きは、部屋の静けさの中でゆっくりと消えていく。
夕陽が傾き、光が彼女の頬をかすめて陰を落とす。
その陰は、まるで“過去と現在の境目”のように、彼女の表情をふたつに分けた。
笑顔の奥に残る微かな痛み。
その痛みさえも、今は静かな秋の光に溶けていく。




