77/94
奏と北條 ― 代わりの会話(10月中旬)1
放課後の生徒会室。
傾きかけた秋の陽が、窓ガラスを透かして机の上に細い影を落としている。
外では、野球部の掛け声が遠くでかすれて響いていた。
だが、その声も次第に夕風に吸い込まれ、室内には紙をめくる音だけが残る。
奏は机に向かい、文化祭の報告書を一枚ずつ確認していた。
分厚いファイルがいくつも積まれ、整然と並ぶ資料の山。
ホチキスを留める指先が規則的に動く。
その所作はどこか、無意識の祈りのようだった。
窓辺のカーテンが、風に揺れてふわりと膨らむ。
淡いオレンジの光が、その布越しに柔らかく室内を染める。
静かすぎる空間。
その静けさに、奏はどこか安心していた。
けれど同時に――耳の奥で、何かを聞き逃している気がしてならなかった。
心を整えるように、彼女はまた一枚、紙の端を揃える。
きっちりと、何も乱れのないように。
その几帳面な仕草だけが、胸の奥のざらつきを覆い隠していた。




