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机の上には、整然と積み重ねられたファイルの山。
ページの端はぴたりと揃い、どの資料も乱れひとつなく並んでいる。
その秩序だった光景は、美しくもどこか無機質だった。
――まるで、心の中の“整理しきれない何か”を覆い隠すための防波堤のように。
窓の外では、秋桜が風に揺れていた。
淡い陽射しの中、一枚の花びらがゆっくりと空気を漂い、やがて窓辺を越えて舞い込む。
ふわり――。
その花びらが、奏の指先に触れた。
わずかに震える指。息を呑む。
一瞬、胸の奥に透の姿がよぎる。
夕暮れの教室、言葉を探して黙り込んだ横顔。
あのとき掴めなかった言葉たちが、花びらの柔らかさとともに蘇る。
奏はそっと指先を閉じる。
けれど、開いた手のひらには何も残っていなかった。
残るのは、淡い風の名残と――まだ整理できない想いだけだった。




