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北條がペンを置く音が、静かな部屋に小さく響いた。
ふと視線を上げた彼の目が、窓の外の秋桜に向かう。
「もうすっかり秋だな。文化祭、あっという間だったな」
奏も手を止め、彼と同じように外を見る。
風に揺れる花々が、淡い陽の光を受けてやさしく揺れていた。
「うん……。なんか、終わった実感がまだないけど」
北條が、少しだけ笑う。
「でも、あの展示、評判よかったよ。お前のデザイン、やっぱりすごかった」
奏はわずかに頬を染めて、視線を落とす。
「……ありがとう」
声は控えめで、それでもその口元には確かな笑みが浮かんでいた。
部屋の空気が、ふっと柔らかくなる。
書類の白が夕陽を吸い込み、橙色に染まる。
その光の中で、奏の笑顔はどこか自然で、安堵に近い。
だが、その安堵の奥に、ほんの小さな影があった。
――“本当に、これでよかったの?”
机の端で、ホチキスの銀が光を反射する。
それはまるで、心の奥に刺さったままの小さな棘のように、
夕暮れの色を静かに返していた。




