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「奏と北條 ― 代わりの会話(10月中旬)」1
生徒会室の空気は、夕方の光で淡く染まっていた。
机の上には書類の山。白い紙の端が、わずかな風にかすかに揺れる。
奏は無言のまま、ページを揃えてホチキスを打った。
カチリ、と金属音が一つ鳴る。
隣では北條が同じように報告書をまとめながら、横目で奏を見た。
「相変わらず丁寧だな。これ、もう少し雑でも怒られないって」
冗談めかした声。
奏は顔を上げ、少しだけ肩をすくめて笑う。
「そういうの、気になっちゃうタイプなの」
北條は軽く息を吐き、口元に笑みを浮かべる。
「真面目なのはいいけど、肩こらない?」
奏も笑い返した。
「たぶん、もう凝ってるかも」
二人の間に、小さな笑いがこぼれる。
窓の外で風が秋桜を揺らし、その花影が室内の壁をゆらりと染めた。
その光の中で、奏の笑顔は柔らかく見えた。
けれど、その柔らかさはどこか“避難所”のようでもあった。
そこには安心がある――けれど、それはほんの一時の静けさにすぎない。
ホチキスの音が再び鳴る。
その規則正しい響きが、彼女の胸の奥の“乱れた思い”を隠すように、淡々と続いていた。




