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教室の隅に、使われなくなった扇風機があった。
コードは丁寧に巻かれ、金属の羽根に薄く埃が積もっている。
その沈黙が、「夏の終わり」を告げていた。
窓の外から吹き込む風が、机の上のプリントを一枚めくる。
紙が擦れる音は、まるで季節のページがゆっくりとめくられるようだった。
誰もいない放課後の教室で、その音だけが小さく響く。
透は鞄を肩にかけ、何も言わずに教室を出ていった。
その背中が廊下の角で消えるまで、奏はただ見つめていた。
静けさが戻る。
夕陽がカーテンを透かし、光の粒が床に散る。
奏はふと窓を見上げた。
風が頬を撫で、淡い夏の残り香を運んでくる。
――風は、まだ夏の匂いを少しだけ残していた。
それでも、ふたりのあいだの空気はもう秋だった。




