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『その手を言葉にできたら』 ― 行動でしか伝えられない彼女と、言葉でしか繋がれない彼 ―  作者: 南蛇井


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3

 授業が終わると、椅子の脚が床をこする音が一斉に響き、

 やがてそれも静まっていった。

 教室の空気がゆっくりと緩み、放課後の匂いが流れ込む。


 夕陽がカーテンを透かし、白い布が橙に染まる。

 その向こうで、外の空はすでに秋の色を帯びていた。


 奏は鞄の中に教科書を収めながら、前列に目を向ける。

 透が数人の新聞係のメンバーと立ち話をしている。

 資料を手に、短く、控えめに頷く姿。


 ――声をかけようか。

 口の中で言葉が形になりかけて、喉の奥で止まった。


 「おつかれ」と言うだけでいいのに。

 その一言の“距離”が、やけに重かった。


 透もふと気配を感じたのか、背後を振り返る。

 けれど目が合う寸前に、視線を逸らしてしまう。

 その動きが、奏の胸の奥に微かな風穴を開けた。


 カーテンがふわりと揺れて、ふたりのあいだに割り込む。

 まるで風そのものが、話しかけようとする声を遮ったかのように。


 音はもう、秋虫の細い鳴き声と、机の上で紙が擦れる音だけ。

 その静寂の中で、時間がゆっくりと遠のいていった。

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