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新しい座席表が貼り出された朝、
透の名前は教卓のすぐそば――前列の左端にあった。
黒板が至近にあり、教師の視線もよく届く。
責任感のある位置だとわかってはいても、なぜか落ち着かない。
一方の奏は、教室のいちばん後ろ、窓際の席。
外の銀杏の葉が、風に揺れているのがよく見える。
光が差し込むたびに机の上で影が踊り、そこだけ季節がゆっくりと進んでいるようだった。
授業の最中、奏がふと顔を上げても、透の姿は黒板の向こうに隠れている。
かろうじて見えるのは、チョークを持つ先生の肩越しにのぞく、透の横顔の断片。
その表情が笑っているのか、沈んでいるのか、もうわからなかった。
透もまた、ノートを取りながら、背後の空気の揺らぎを感じることがあった。
窓の外を見ているとき、誰かがページをめくる音。
それが奏のものだと気づいても、振り向く理由が見つからない。
声をかければいい――そう思う瞬間は、何度もあった。
けれど、言葉を探すほど、口を開くタイミングを失っていく。
たった数歩の距離なのに、そのあいだには目に見えない“断層”があるようだった。
その断層の上で、ふたりの時間だけが、静かにずれていく。




