季節と空気の転換 ― 秋のはじまり(10月上旬)1
六時間目の終わりを告げるチャイムが、静かに教室の空気を震わせた。
黒板の前では先生が最後の説明を書き足している。チョークの擦れる音が、やけに大きく聞こえた。
窓の外には、まだ夏の名残を残す青空。けれどその光はどこか弱々しく、机の上に淡く影を落としている。
窓際のカーテンが、風に合わせてゆっくりと揺れた。扇風機はすでに片付けられ、壁際に立てかけられたまま動かない。
かわりに、隙間から入り込む風が冷たくて、肌の上をすべっていく。
席替えから一週間。
新しい座席にまだ馴染めず、教室には小さなざわめきが漂っていた。
プリントをめくる音、筆箱を閉める音、誰かの小さな笑い声――そのどれもが、以前よりも遠くに感じる。
透の席は、教卓に近い前列の端。
奏は、後方の窓際。
たった数メートルの距離なのに、互いの気配はまるで別の教室にいるみたいに希薄だった。
以前は、ノートをのぞき込むたびに見えた横顔があった。
ふとした拍子に交わる視線があった。
それらが、もうここにはない。
チョークが黒板を叩く音の“間”に、ふたりのあいだの静けさが沈んでいく。
言葉を失ったような午後。
その静けさの中に、“まだ言えない距離”が、少しずつ形を取り始めていた。




