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『その手を言葉にできたら』 ― 行動でしか伝えられない彼女と、言葉でしか繋がれない彼 ―  作者: 南蛇井


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6

奏は足元の紙を拾い上げた。

 指先に触れるその感触は、少し湿っていて、まるで誰かの体温をまだ残しているようだった。


 彼女は透の背中を見つめる。

 外灯の光が彼の肩に滲み、風に髪がわずかに揺れている。

 ――何も言わず、奏は紙を胸に抱いた。

 それは、言葉の代わりに抱きしめた“想い”のように、静かで確かな重みを持っていた。


 そのまま、一歩、また一歩と校舎の影のほうへ歩き出す。

 足音は、夜の湿った地面に吸い込まれていく。


 透は気づかない。

 ただ、ふと顔を上げ、夜空を仰ぐ。

 淡い星が、雲の切れ間からのぞいていた。


 「……届く、かな」


 誰にともなく、微かな声でつぶやく。

 風がその言葉をさらい、闇の向こうへ運んでいった。


 カメラ(視線)はゆっくりと引いていく。

 校舎の窓ガラスに、ふたりの影が淡く映る。

 風が再び吹き抜け、木の葉が鳴り、蝉の声が静かに途切れた。


 ――残るのは、沈黙と夜の匂いだけ。

 けれどその沈黙の奥には、まだ言葉にならない優しさが、かすかに息づいていた。

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