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透は、静かにベンチに腰を下ろした。
膝の上には、文化祭用の展示資料。印刷されたポスター案や原稿の束が、夜風に少しずつめくれていく。
指先で紙の端を押さえながら、透はその一枚一枚を見返した。
見慣れた言葉の並び。誰かに伝えるために選び抜いた文章。
だが、それを見つめるほどに、自分の内側が遠のいていくようだった。
ふっと、小さく笑う。
「……言葉って、面倒だね」
その声は、夜の静けさの中に沈み込んでいった。
独り言――けれど、それは懺悔にも似ていた。
何度も言葉を選び直し、整え、削ってきた。
けれど本当に伝えたかったことだけは、どうしても形にならなかった。
――モノローグ。
「言葉を選ぶたびに、心の温度が下がっていく気がする。
きっと“優しさ”って、もっと不器用でいいんだ。」
風が通り抜け、紙の端をさらりと揺らした。
透の指先が、ほんのわずかに震える。
それは、言えなかった本音の震え。
夜の空気が、それをやさしく包み込み、何も言わずに溶かしていった。




