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透は、夕風に髪を揺らしながらふと空を見上げた。
雲の端に残る光が、ゆっくりと夜の青に溶けていく。
> 「……明日は晴れるかな」
誰に向けるでもないその言葉は、風に乗って遠くへ流れた。
同じころ。
奏は静まり返った教室の窓辺に立ち、同じ空を見ていた。
開け放たれた窓から入る風がカーテンを揺らし、
机の上のプリントが一枚、ひらりとめくれる。
その紙面には、文化祭のポスターの写真。
中央にはまだ――白い余白が、ぽつりと残っていた。
塗りきれなかった空白。
それはまるで、今の二人の心の間に漂う“言葉にならない距離”のようだった。
風がまた吹き、校舎の外の水たまりを揺らす。
そこに映る空は晴れているのに、
波紋が広がるたび、映像はかすかに歪んでいく。
――その歪みこそ、まだ溶けきらない思いのかたちだった。
夜の気配が降りてくる中、
ふたりの時間は、静かに同じ空の下で続いていた。




