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『その手を言葉にできたら』 ― 行動でしか伝えられない彼女と、言葉でしか繋がれない彼 ―  作者: 南蛇井


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2

透は屋上のフェンスに背を預け、手元のスマホをぼんやりと見つめていた。

 画面には、文化祭で撮ったクラス展示の写真。

 笑顔のクラスメイトたち、飾られたポスター、そしてその端に映る自分と奏。

 すべてがうまくいったはずなのに、胸のどこかに小さな“空白”が残っている気がした。


 ――そのとき、背後から足音。

 振り返ると、成瀬が片手に缶ジュースを二本ぶら下げて立っていた。


「お前、また一人で反省会か?」

「……まあ、そんなとこ」


 透が苦笑すると、成瀬は「だと思った」と肩をすくめ、冷えた缶を一本放ってよこす。

「ほら、飲めよ。雨上がりって、妙に暑いだろ」


 プシュッ、と缶の音。

 甘い炭酸の泡が喉を抜けていく。しばらく沈黙が続いたあと、成瀬が何気なく口を開いた。


「お前さ――“言葉で守る”のが好きだよな」


 透は眉を上げる。

「……どういう意味?」


「いや、悪い意味じゃなくてさ。たとえば人が落ち込んでるとき、

 “頑張れ”とか“気にするな”って言うより、

 “そう思うのも自然だよ”って説明してやるタイプだろ。

 行動より、言葉で安心させるのが先、みたいな」


 透は一瞬、返す言葉を失った。

 冗談のような調子だったが、成瀬の言葉は静かに胸に刺さる。

「……そうかもしれない」


 視線を落とすと、屋上のコンクリートにうっすらと残る水たまりが、夕空を映していた。

 そこに揺れる自分の影を見ながら、透は思う。


 ――僕は、言葉で相手を包もうとしていた。

 本当は、手を伸ばすだけでよかったのかもしれないのに。

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