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透は屋上のフェンスに背を預け、手元のスマホをぼんやりと見つめていた。
画面には、文化祭で撮ったクラス展示の写真。
笑顔のクラスメイトたち、飾られたポスター、そしてその端に映る自分と奏。
すべてがうまくいったはずなのに、胸のどこかに小さな“空白”が残っている気がした。
――そのとき、背後から足音。
振り返ると、成瀬が片手に缶ジュースを二本ぶら下げて立っていた。
「お前、また一人で反省会か?」
「……まあ、そんなとこ」
透が苦笑すると、成瀬は「だと思った」と肩をすくめ、冷えた缶を一本放ってよこす。
「ほら、飲めよ。雨上がりって、妙に暑いだろ」
プシュッ、と缶の音。
甘い炭酸の泡が喉を抜けていく。しばらく沈黙が続いたあと、成瀬が何気なく口を開いた。
「お前さ――“言葉で守る”のが好きだよな」
透は眉を上げる。
「……どういう意味?」
「いや、悪い意味じゃなくてさ。たとえば人が落ち込んでるとき、
“頑張れ”とか“気にするな”って言うより、
“そう思うのも自然だよ”って説明してやるタイプだろ。
行動より、言葉で安心させるのが先、みたいな」
透は一瞬、返す言葉を失った。
冗談のような調子だったが、成瀬の言葉は静かに胸に刺さる。
「……そうかもしれない」
視線を落とすと、屋上のコンクリートにうっすらと残る水たまりが、夕空を映していた。
そこに揺れる自分の影を見ながら、透は思う。
――僕は、言葉で相手を包もうとしていた。
本当は、手を伸ばすだけでよかったのかもしれないのに。




