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夜のざわめきの中で、ふたりの姿はもう交わらなかった。
同じ夏祭りの灯りの下にいながら、
それぞれ、まるで別の夜を生きているかのように。
透は立ち尽くしていた。
人の波が彼の肩をかすめ、笑い声が遠ざかっていく。
足元を、風が抜ける。
その風に乗って、小さな紙くずが舞い上がった。
屋台のチラシの切れ端か、それとも誰かの願いの残骸か。
それはふわりと宙を回り、
やがて花火の灰のように、音もなく消えていった。
――ぱん。
夜空を裂く、ひときわ大きな音。
視線を上げた瞬間、最後の一発の花火が咲いた。
その光が、
一瞬だけ、透の頬の輪郭を照らす。
その同じ瞬間、別の場所で、
奏の浴衣の白地がほのかに輝いていた。
ふたりの間にあるのは、
わずかにずれた光の瞬き――
光と闇の“タイムラグ”。
それが、まだ埋まらない距離のように、
静かに夜の中へ沈んでいった。




