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透はスマホの画面を見つめ、
人の流れの合間に小さく苦笑した。
「成瀬たち、もう屋台のほう行ってるらしい」
「じゃあ、そっち行こうか」
提灯の明かりが画面に映り込み、
指先に赤い光が滲んでいる。
奏は小さくうなずいた。
だが、その声は人々のざわめきにすぐ呑まれ、
夜の空気に溶けていった。
金魚すくいの水音、綿あめの機械の回転音、
浴衣の袖が擦れ合う音――
そのどれもが、ふたりのあいだの言葉を遠ざける。
屋台の明かりに照らされた奏の横顔は、
ほんの少し疲れて見えた。
それでも彼女は、
「大丈夫」とでも言うように柔らかく微笑んでいた。
透は人混みをかき分けながら、
後ろを振り返る。
そのたびに、奏との距離が少しずつ開いていくのに気づく。
「……藤原さん?」
呼びかける声は、風に流されて届かない。
夜のざわめきの中、
二人の影だけがゆっくりと離れていった。




