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透は少し考えるように眉を寄せ、言葉を選んだ。
「意見、聞くだけでもよくない?」
その声は柔らかい――けれど、どこか慎重すぎた。
奏は筆先を止めたまま、紙面を見つめている。
わずかな沈黙ののち、静かに答えた。
「……言われなくても、やってるよ」
短い言葉。
だがその奥には、かすかな防衛の色が混じっていた。
次の瞬間、室内の空気がすっと変わる。
扇風機の羽音が、取り残されたように低く回り続ける。
透はその音を聞きながら、目を伏せてゆっくりと息を吐いた。
「うん、そうだね。……ただ、もう少し“余白”があってもいいかなって」
奏は返さなかった。
ただ、ポスターの端を押さえ、定規を滑らせる。
紙の上に走る鉛筆の線が、沈黙を切り裂くように響いた。




