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小さな衝突(8月初旬) 1
夕方五時半を過ぎた美術室には、ゆるやかな橙の光が流れ込んでいた。
カーテンの隙間から射し込む陽が、机の上のポスターや絵の具のチューブ、水の入ったコップを柔らかく照らしている。
扇風機が低い唸りをたて、どこか遠くで運動部の掛け声がかすかに響いていた。
教室の喧騒が消えたあとの静けさ。
広い空間の中に残っているのは、奏と透のふたりだけだった。
机の上には、文化祭展示の最終案――カラフルな下書きポスター。
奏は定規を片手に、細い線をなぞるように確認していく。
透はその少し後ろから、椅子にもたれながら全体を眺めていた。
乾きかけた水彩のにおいと、紙のざらりとした手触り。
夏の終わりを思わせる、ゆるやかで少し疲れた空気が、ふたりのあいだを静かに流れていた。




