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透は、崩れた紙束を整え終えると、
しばらく何かを言いかけるように口を開きかけ――
結局、言葉を飲み込んだ。
静かに椅子を引いて立ち上がる。
その動作すら、教室の静寂に溶けていく。
「無理しないで。明日もあるんだから」
穏やかに告げたその声が、
どこか遠くから聞こえてくるように感じた。
透は扉の前で一度だけ振り返り、
視線で何かを確かめるように奏を見つめ――
何も言わず、廊下の光の中へ出ていった。
残された教室には、
夕暮れと夜のあわいの色が静かに広がっている。
奏は机に両肘をつき、
目の前のプリントをただ見つめた。
赤ペンが止まったままの行。
未記入の欄が、息を潜めて並んでいる。
奏(心の声):
「“頼る”って、どうやってやるんだろう」
そのつぶやきは、誰にも届かないまま、
扇風機の回転音にかき消されていった。
積み重なった紙の山。
それはまるで――
言葉にできなかった思考のかたまりのように、
机の上で静かに息をしていた。




