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奏の視線が、机の上のプリントの山へと落ちる。
その白い紙面が、いまはまるで“壁”のように見えた。
「……言われなくても、ちゃんとやってる」
「言葉にしなくても、伝わると思ってた。」
かすかな息と一緒にこぼれた言葉は、
誰に向けたものでもないように静かだった。
透はその横顔を見つめ、少しだけ目を伏せる。
ため息ではなく、深呼吸のようにゆっくりと息を吐く。
「伝わる人もいるけど、気づけない人もいる。
僕も……そうだったし。」
その“自覚のある優しさ”に、
奏は言葉を探したが、どれも喉の奥でほどけていった。
沈黙。
遠くの校庭から、笛の音が風に乗って届く。
窓の外の空は、ゆっくりと群青へと変わりはじめていた。




