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透は机の上に広がる紙束を見て、思わず苦笑した。
プリント、領収書、チェックリスト――そのどれもが几帳面に並び、蛍光ペンの色で仕分けされている。
「……手伝うよ。二人でやったほうが早いし。」
そう言って椅子を引く音を立てた瞬間、
奏はすぐに顔を上げ、首を横に振った。
「大丈夫。もう少しで終わるから。」
声はやわらかく、礼儀正しい。
けれど、その響きの奥に、どこか拒むような硬さが混ざっていた。
透は一瞬だけ、口をつぐむ。
窓の外では、部活帰りの生徒たちの笑い声が遠くに消えていく。
「……君、なんでも一人で抱え込むね。」
何気ないつもりで言った言葉だった。
だが、奏の手がぴたりと止まる。蛍光ペンの先が紙の上で小さく震える。
「それを、“悪いこと”みたいに言わないで。」
その声は静かで、でも明確だった。
透は少し驚き、息を呑む。
「そういうつもりじゃないよ。
でも、言わなきゃ――気づいてもらえないんだよ。」
透の言葉が教室に落ちる。
その“やさしさ”が、なぜか余計に距離を作っていくようだった。




