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第2シーン:溜まりゆく負担(7月下旬) 舞台 1
廊下の奥から、かすかな靴音が近づいてきた。
扉のガラス越しに、人影が一瞬揺れる。
透だった。
手にまとめた報告書を抱え、少し伸びをしながら歩いてくる。
窓の外の光がもう薄暗く、教室の明かりがぽつりと残っているのを見て、彼は足を止めた。
「……藤原さん、まだやってるのか」
独り言のように呟いて、そっとドアを開ける。
静かな音を立てて扉が閉まると、教室の空気がわずかに揺れた。
奏はその音に気づき、顔を上げる。
けれどすぐ、手元のプリントに視線を戻した。
透の方を見ないまま、声だけが静かに返る。
「お疲れさま。……みんな、もう帰ったの?」
透は頷きながら、近くの机に報告書を置く。
「うん。でも、ここだけまだ明かりついてたからさ。」
奏は小さく笑った。けれど、その笑みはどこか疲れていた。
「ここだけ、ちょっと残っちゃってて。」
蛍光灯の光が、プリントの白と奏の頬を同じように照らしていた。
透はしばらく黙ってその手元を見つめる。
紙をめくる音だけが、静かに続いていた。




