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担任がプリントの束を抱えて教室を出ていくと、扉が静かに閉まった。
その瞬間、ざわめきの残響が消え、教室には夕陽の光だけが残る。
黒板の中央――白く残るチョークの文字。
「展示」と「カフェ」。
そのふたつの言葉の上に、窓から差し込む光が斜めに落ちていた。
陽射しの境界線が、まるで意図したかのように、奏と透の席の間をまっすぐに分けている。
奏は手元の企画書を見つめたまま、静かに息を吸い込む。
> 「ここから、ちゃんと始めなきゃ」
その決意は小さくても、確かな熱を帯びていた。
一方、透は黒板の文字を見上げながら、柔らかく微笑む。
> 「きっと、楽しくなるさ」
何気ないその言葉の裏には、まだ形を持たない希望が漂っている。
夕陽の境界が少しずつ伸びていき、
“展示”の文字を包み、“カフェ”を飲み込んでいく。
光と影の狭間で、ふたりの距離がゆるやかに揺れていた。
――けれど、どちらもまだ、
“相手の心の言語”を知らなかった。




