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5.締め:分かれ道の余韻
坂を下りきると、街の灯がひとつ、ゆっくりと点った。
オレンジ色の光が、雨上がりの舗道をやわらかく照らす。
交差点の先で、道が二手に分かれる。
透の家は右、奏の家は左。
どちらへも続く細い道が、夕暮れの色を残したまま伸びている。
奏は段ボールを抱え直しながら、小さく息をついた。
そのまま歩き出しかけて——ふと、足を止める。
背後で、透の足音がもう遠ざかっていく。
彼は、振り返らなかった。
その背中はまっすぐで、風に溶けるように静かだった。
> (……ちゃんと、届いてたのかな)
胸の奥で、そう呟くように思う。
口には出さず、ただ夕風の中で見送った。
透は、歩きながらふと空を見上げた。
坂の向こうで、雲の縁がまだかすかに赤く染まっている。
> 「言葉にできない思いほど、静かに心に残るんだな」
その声は誰にも届かず、風の中へと消えていった。
街灯の下、二人の影がゆっくりと伸びて、そして離れていく。
夕焼けの残光がその境界をやさしく包み、
やがて夜の色が、静かに第一章の幕を降ろした。




