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3.心の触れ合い:言葉と行動
透は坂の途中で、少し歩調を緩めた。
奏の足音が、かすかに揃う。
段ボールの角が揺れるたび、影の形が夕陽の中で歪んで重なった。
> 「でも、頼られるのって悪くないよ」
透の声は、風の音よりも少しだけ柔らかかった。
まるで、何かを急いで伝えようとしていない——そんな穏やかな響き。
奏は思わず足を止めた。
腕の中の段ボールを抱え直しながら、横にいる透の横顔を見上げる。
沈みかけた陽が、透の輪郭を金色に縁取っていた。
> 「……そんなふうに言える人、久しぶりかも」
口には出さなかったけれど、胸の奥でその言葉が静かに浮かぶ。
誰かに「頼っていい」と言われたのは、いつぶりだったろう。
風がふたりの間を抜けていく。
制服の裾を揺らし、淡い埃の匂いと一緒に、日暮れの気配を運んでくる。
沈黙があるのに、遠く感じなかった。
むしろ、言葉のない時間の中で、何かがそっと触れ合っているようだった。




