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『その手を言葉にできたら』 ― 行動でしか伝えられない彼女と、言葉でしか繋がれない彼 ―  作者: 南蛇井


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「夕暮れの帰り道」 時期:6月初旬(期末前) 1.坂道と夕暮れの色

放課後の坂道は、夕焼けの色を吸い込みながら、ゆるやかに沈んでいく。

 空はオレンジから藍へと溶け合い、電線には小さな鳥たちが並んでいた。彼らの羽音が、遠くで鳴る風鈴のようにかすかに響く。蝉の声にはまだ早い。風が街を通り抜け、葉の裏をさらさらと撫でていった。


 透は校門を出て、坂の中ほどで足を止めた。

 視線の先、ゆるやかに傾いた陽の光の中で、ひとりの少女が歩いている。段ボールを胸の前に抱え、肩で息をしながら、それでも一定の速さで前へ進んでいた。制服の袖が少し汚れていて、手の甲には汗の跡が残っている。


 藤原奏だった。

 委員の仕事だろう。あの几帳面な彼女のことだから、最後まできっちりやり通すに違いない。

 透はその姿を見つめながら、胸の奥でひとつ息をつく。


 > 「……また、ひとりで無理してる」


 口に出すことはなかった。

 ただ、その言葉が小さく胸の中で波を立てる。

 坂の上から吹いてくる風が、彼の頬をかすめ、遠くへ流れていった。

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