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6.締め:余韻と予感
透は、棚から一冊の絵本を取り出した。
ページをぱらぱらとめくりながら、何気ない調子で尋ねる。
> 「弟さん、どんな話が好き?」
奏は少し考えてから、口の端を上げた。
> 「怖い話。でも最後に笑えるやつ」
透はページをめくる手を止め、ふっと微笑む。
> 「……いいね。それ、ちょっと藤原さんみたい」
奏は思わず顔を上げ、照れくさそうに目を逸らす。
頬にかかる髪の先から、小さな雫が落ちた。
その瞬間、図書室の空気が静かに揺れる。
窓の外では、雨音が少しだけ強くなった。
けれど、それは不思議と心地よい響きに聞こえる。
ふたりの間の沈黙が、もう“気まずさ”ではなく、
なにかやわらかな“余韻”になっていた。
外の雨が、少しずつ世界を閉じていく。
その中で――
透と奏の距離だけが、静かに近づいていった。




