26/94
5.象徴:雨と静けさの中で
窓の外では、まだ細い雨が降り続いていた。
空の色は灰に近く、校庭の木々が静かに濡れている。
けれど、図書室の中だけは別の空気が流れていた。
紙と木の匂いが混ざり、淡い照明がページの上に柔らかく落ちる。
外の雨音が、世界とこの小さな部屋をやさしく隔てている。
ここには、透と奏の声しかない。
透は少し窓の方を見やりながら、ぽつりと呟いた。
> 「静かな場所って、言葉がよく聴こえるね」
奏は本を閉じ、静かに頷いた。
> 「うん……雨の音に混ざるくらいが、ちょうどいいかも」
言葉が交わるたび、雨の音がその間を縫うように流れていく。
外では世界が冷たく濡れているのに、
図書室の中は――ふたりの声で、ほんの少しだけあたたかかった。




