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「雨の日の図書室」 時期:5月下旬(放課後)1.雨音と静寂
放課後の校舎は、雨の匂いに包まれていた。
窓を叩く雨粒の音が、一定のリズムで響いている。遠くの運動場も校門も、すべてが灰色の霞の向こうに溶けていくようだった。
図書室の照明は少し暗く、紙と木の匂いがしっとりと混ざり合っている。窓際には、帰りそびれた数人の生徒が静かに本を読んでいた。ページをめくる音が、雨音と交互に小さく重なる。
透は、書棚の間をゆっくり歩いていた。
指先で背表紙をなぞりながら、一冊一冊の間を確かめるように。
(……この静けさは好きだけど、今日は少しだけ長い)
そう心の中で呟き、ふと立ち止まる。
そのとき――向かい側の棚の向こうから、かすかな声がした。
> 「……どれがいいかな……」
少し迷うような、柔らかい声。
その響きに、透の指が止まる。
棚の隙間からそっと覗くと、そこには奏の姿があった。
彼女は絵本の棚の前で、小さな表紙を何冊も手に取っては戻し、雨の音を背に、真剣な顔で考えていた。




